賽は投げられた | ナノ

 

私の家は山の奥地にある。理由としては、射撃の練習をするためだろう。人様に迷惑をかけないように、みたいな。あとは、犬神様もたまに遊ばせるため。遊ばせると言ってもフリスビーを投げて取って来いなんて生易しいものじゃなくて、山の中に居る悪魔を狩りに行くのだ。山の中には悪魔がたくさん居るから、普通の人は私の家には近づけない。家の周りには犬神様の結界が張ってあるから、悪魔は入れない。

「はず、なのに」

「おや、お帰りなさい☆」

バチコンとウインクを飛ばしてくるこのピンク色したピエロ野郎。学校から帰ってきて、ぐーたらしようと思った矢先に、なぜこの悪魔が家の中に居るのだ。ヨハン・ファウスト5世。またの名を、メフィスト・フェレス。見た目は人を馬鹿にしたようなピエロみたいな人間の姿だが、悪魔の臭いがプンプンとする。思いっきり顔をしかめていると、メフィストの前に座るお母さんと目が合った。

「おかえり。そこに座りなさい」

「・・・はい」

丁寧にお茶菓子まで準備されていて、まるで家庭訪問じゃないか。鞄を部屋の隅の方へ下ろしてから、座った。メフィストは相変わらずニヤニヤと薄ら笑いを浮かべており、癇に障る。

「ゆいももう中学生でしょう?」

「まぁ、そうだけど」

「高校は、正十字学園に行ってもらうから」

「えっ」

「こちらとしても高村家の方なら歓迎しますよ」

あぁ、だから今日はメフィストが居るのか。一応正十字学園の理事長やってるし。でも、

「いきなりすぎじゃね?」

「あら、赤ちゃんの頃にちゃんと話したわよ?」

「覚えてるか!」

赤ちゃんの頃の記憶があった方が怖いわ!なんてものすごく笑顔になったお母さんに言えるわけもなく、ただ口が開いただけだった。正十字学園と言えば、頭良しな金持ちが行く学校じゃないか。お母さんとメフィストはテキパキと入学手続きなどをしている。

「では、勉強道具を差し上げましょう!」

再びウインクでハートを飛ばしながら、私に話しかけてきた。アインス、ツヴァイ、ドライという掛け声と共に、テーブルの上にドサッと教科書や問題集が現れた。

「入学後には祓魔塾にも通ってもらいますので、テキストもお渡ししておきます」

「・・・はぁ、どうも」

「一生懸命勉学に励んでくださいね☆」

ウインクがやたらと上手なのは、練習したんだろうか。とりあえず、帰ってくれないかな。



未来計画
(赤ちゃんの頃に言われても覚えてません)


 

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