短編 | ナノ

 
彼女はいつも無表情で、誰かに話しかけられても淡々とその返事をするだけ。私が所属するテニス部にも仏頂面の方が居ますが、彼女ほどじゃない。誰に話しかけられても同じような態度で、それはテニス部が話しかけても変わらない。今までそんな態度の子が居なかったせいなのか、最近よく仁王君が私のクラスへ来ては彼女に話しかけていく。それが気に入らないのか、一昨日辺りから教科書が無くなったりしているらしい。それでも、彼女は無表情を崩さない。

「柳生、これ苗字に渡しといてくれないか?」

「学級日誌・・・分かりました」

たまたま用事があって職員室へ行けば担任に呼び止められて日誌を渡された。・・・もう放課後だというのにまだ渡していなかったのですか。教室に彼女が残ってるのかなんて分かるわけがないが、自分の鞄も教室へ置いてきているため一度は教室へ戻らないといけない。職員室を出てから、教室へと向かえば中から女子生徒の声が聞こえてきた。それは誰かを罵るような言葉ばかり。

「アンタなんか、いずれ誰にも相手にされなくなるわよ!」

「構わない」

「・・・生意気っ」

聞こえてきたのは日誌を渡す相手の苗字さんの声。気が付けば体は勝手に動いていて、教室のドアを開ける。

「あ、柳生くん・・・!」

「女性が暴言を吐くのは感心しませんね」

「っ、」

彼女達は一度苗字さんを睨んだあとに、教室を走って出て行った。廊下を走るのも感心しませんが。

「大丈夫ですか?」

「平気」

苗字さんに声をかけてみれば、やはり会話は長く続くわけがなく。とりあえず担任から頼まれた日誌を彼女に渡せば、無表情ながらもありがとうと言われた。

「・・・どうして、苗字さんはいつも無表情なのですか?」

ほんの出来心くらいの気持ちで聞いたのが、間違いだった。一瞬だったけれど眉間にしわを寄せ、何かに苦しむような表情を見せた。あぁ、そんな表情をさせたいわけじゃないのに。

「・・・・・・家で、泣いたりすると怒られるから。だから、泣かないし怒らないし笑わない」

ぽつり、と呟かれた言葉は意識をちゃんと向けていなければ聞き取れないような大きさで。その言葉が、どこか悲しみを含んでるようにも聞こえた。「なぜですか?」

そう聞いても、ただ彼女は何も答えずに無表情。

「家がダメなのでしたら学校ではどうなんです?」

「学校?」

「そうです。まぁ私が苗字さんとお話したいというのが本心ですが」

「・・・つまらないよ」

「そんな事ありませんよ。だから、」



笑いたまえ



(そうするだけで、世界は180度変わりますから)

end.
title Black casket
笑いたまえ 

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