短編 | ナノ

 
ピンポーン、と無機質な音が鳴り響く。絶対家の中に居るはずなのに、出てくるわけもなく当たり前のように合鍵を使ってドアを開ける。

「名前ー」

名前を呼んでみるが返事は返ってこない。大方ヘッドフォンをつけて音楽でも聴いているのか、寝てるかのどっちかだろう。居間に鞄を放り投げて、名前が居るであろう一室のドアを開ける。案の定名前はヘッドフォンをつけて音楽を聴きながら壁に寄りかかるようにして寝ていた。首が痛くなりそうだな。

「・・・名前、」

ヘッドフォンの音楽を止めてから名前を呼んで肩を揺する。そうすれば一度眉間にしわを寄せてから、ゆっくりと目蓋が上がった。

「あか、や・・・」

「おはよ、名前」

「うん、おはよう」

まぁおはようと挨拶はするものの、今は15時だったりするんだけど。まだ寝たりないのか目蓋を擦りながらその場を動こうとしない。ぼーっとしていた時間が数分過ぎた頃、漸く頭が回り始めたのか、名前が喋りだした。

「お母さんは?」

「・・・まだ帰ってきてねぇよ」

「ふーん・・お父さんは?」

「まだだ」

「そっかぁ・・・。あ、赤也このCD良かったよ」

「だろ?俺のオススメだ!」

「また何かあったら貸してね」

「おう!」

そのあと一言二言話して、名前はまた眠りについた。



引きこもりの眠り姫



(どれだけ寝ても、どれだけ家に居ても、事故でなくなった両親には会えるはずがないのに)
(せめて、少しくらいは幼馴染の俺が、近くに居てやろうって)

end.
title Black casket
引きこもりの眠り姫 

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