短編 | ナノ
旧女子寮に、私は住んでいる。何故かって、家賃が格安だからだ。しかしおどろおどろしい雰囲気があるせいか、住んでいるのは私だけ、通りかかる人が週に1人居るか居ないかくらいの立地場所。
だから、いつものように加減せずにドアを開けたのだ。
「………」
ゴンッという音がして、視線を下に移せば人が倒れていて、私が開けたドアに頭がぶつかっている。
「……」
キィ、と音がしてパタンとドアを閉める。
(うん、私は何も見てない)
こんな辺鄙な場所に人が倒れているなんて、きっと変質者かなんかだ。あいにく寮には私一人しか居ないから変質者が来られたら非常に危ない。
仕方ないから窓から逃げるかとドアに背を向けて歩き出したら、何かにぶつかった。
(わぷっ…、おかしいな、壁なんかあるはずないのに)
「……甘い匂いがします」
頭上から声が聞こえて、顔を上げた。目の下にクマが出来た、先程倒れていたであろう人物と目があった。
クンクンと鼻を動かす目の前の人がなんとなく可愛く思えて、くすりと笑う。
「あの、良ければどうぞ」
片手に持っていた袋の中からクッキーを1枚取り出して手渡せば、パクリと食べられた。次の瞬間、ぐぅうううとお腹が鳴った。もちろん私ではなく、目の前の彼のお腹だ。
「…、まだ食べますか?」
「はい、食べます」
無表情なのになんとなく先程よりもイキイキしている、ような気がする。袋に入っていたクッキーをぺろりと平らげて、彼は去っていった。
「名前、」
「あ、アマイモンさん。また来たんですか?」
「来ちゃダメですか?」
「いえいえ、大歓迎ですよ」
「今日のおやつは何ですか」
「マフィンです」
あの日以来、何故か私のところへお菓子を食べに来るようになった。
アマイモンさんと、二人で今日もまた、お茶会です。
end.
title パッツン少女の初恋
そして、今日もまた