短編 | ナノ

 
ねぇ待って。どこに行くの?置いていかないで、ねぇ。お願いだから、こんな場所に一人にしないで。

「ごめんな、名前」

嫌だ。やだやだやだ。捨てないで。
どれだけ叫んでも、追いかけたくても出来なくて、君は視界から消えていった。




pipipipipi...

携帯のアラームの音で目が覚める。今日はなんか変な夢を見てしまった。
転校初日に遅刻は避けたかったので、十分余裕を持ってアラームを設定しておいた。制服はまだ届かなかったから、前の学校の制服を着て。誰も居ない部屋にいってきますと呟いて、ドアの鍵を閉めた。

「転校生の苗字だ。自己紹介しろ」

「はじめまして、苗字名前です。よろしくお願いします」

在り来たりな言葉で自己紹介を済ませれば、私の席を教えられた。日吉くんという人の隣らしい。手を上げた日吉くんを見て、今朝の夢を思い出した。そっくりだ。

「よろしくね」

「・・・あぁ」

どうしてだろう、日吉くんの隣はなぜか安心するような気がする。それがなぜなのか、理由なんてわからない。もしかしたら直感的なものなのかもしれない。でも、どこか怖かった。

「苗字、次移動教室だ。場所わかんないだろ」

「うん」

「こっちだ」

スタスタと歩く後ろ姿は、夢のようで、気が付けば制服の裾を掴んでいた。立ち止まった日吉くんは不思議そうに振り返った。

「・・・いかないで、ごしゅじんさま」

「!」

ポロポロとあふれ出てくる涙の意味を私は分からない。でも、あの夢の中の気持ちが抑えきれないように、泣き出した。ぼやける視界の中、日吉くんは凄く後悔したような顔をしていた。





「――!名前!」

「!」

息を切らせて走ってくるご主人様が見えて、大きな声を出して鳴いた。私はここに居るよ、だから置いてかないで。


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夢の終わりに君が居る 

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