短編 | ナノ
教室でいつものように文庫本を読んでいると、次第に女子のざわめきが大きくなっていくのが聞こえる。どうせまたテニス部の誰かが廊下でも歩いているのだろうと自己完結させ、文章を目で追う。
「名前」
「・・・蓮二。どうかした?」
名前を呼ばれたから顔を上げると、そこには先程のざわめきの正体であろうテニス部であり、幼馴染の蓮二が立っていた。
「英語の辞書を貸してくれないか」
「珍しいね、蓮二が忘れ物なんて」
「俺だってたまには忘れるさ」
「ふーん」
「それと、放課後は降水確率100%だ」
「げっ、傘ないし」
「ふ、だろうな」
少し馬鹿にしたように笑う蓮二がかっこよく見えるなんて、私は重症だ。ぼんやりと蓮二を見ていたせいか不思議そうな顔をされる。
「・・・顔に何かついてるか?」
「いや、なにも」
そうか、と呟く声は小さかった。
「ねぇ蓮二、」
「なんだ?」
「・・・やっぱなんでもない!」
「・・・そういうときほど必ず何かある確率96%だ」
「んー、じゃあ蓮二が当てて。幼馴染の事くらいわかるでしょ?」
「ふむ・・・考えてみよう」
そう言い残して蓮二は自分のクラスへと帰っていった。
でもね、きっと、一生分からないよ。
私が、蓮二の事 好きだって。
私だけの秘め事だって蓮二には、彼女が居るもの。
end.
私だけの秘め事