短編 | ナノ
ホンマ、今日は最悪やわ。はよ帰ろうと思って近道になる路地裏を音楽を聴きながら歩いてたら、真正面からヤンキーっぽい男達が歩いてきた。ちゃんと避けたのに、軽くぶつかってしまった。
「おい、話聞いてんのか!?」
グイッと胸倉をつかまれるけど、なんかいろいろめんどくさいねん。明日も部活あるし、再来週には練習試合も入ってる。怪我なんかしてる場合ちゃうねん。
どうしようかと頭を悩ませていたら、後ろからカラカラと何かを引きずるような音がしてきた。男達も音に気づいたのか、俺の後ろの方を凝視している。首だけ回して後ろを見れば、薄暗くてよく見えない路地から女が一人出てきた。
「あれ、なにしてんー?」
手に持っているのは、所謂“釘バッド”と呼ばれるであろうもので、それを地面につけて引きずるようにして俺たちの方へ向かってきた。
「おい、あれって苗字 名前じゃねぇか?」
「マジかよ!ちっ、逃げるぞ」
俺を囲んでいた男達はすぐに来た道を引き返していった。なんやねん。
「おーい、大丈夫か?」
「・・・っス」
「そら良かったわ。ほな、気ぃつけて帰りー」
「アンタ、名前は?」
「・・・君何年生なん?」
「中2やけど」
「ほんならあたしの方が年上やね。あと、名前名乗るんは自分が先とちゃう?」
「・・・財前 光や。アンタは?」
敬語はなしかいとかぶつぶつ言ってるけど気にしない。身長だって俺のほうが高いんだし。それに、さっきのあんな姿見られたなんて最悪や。かっこ悪・・・。
「光、か。あたしは苗字 名前。じゃあ、二度と絡まれんなやー」
手をひらひらとさせて名前さんは立ち去っていった。今でも少しだけ早く脈打つ心臓を落ち着けようと深呼吸をしたら、余計に名前さんの顔が浮かんで。
「・・・ホンマ、どないしてくれとんねん」
息も忘れて恋に落ちる(また、会えるやろか)
翌日:
「白石、財前の様子おかしない?」
「謙也も思っとったんか。こりゃ、昨日なんかあったな」
「・・・あ、またミスってる」
「・・・・・・(・・、たぶん恋やろなぁ)」end.
title Blackcasket
息も忘れて恋に落ちる