ネタ帳 | ナノ


私は生まれながらにして、世界が見えなかった。光は辛うじてわかるものの、他は闇。それだけでも世界から切り離される要素があるにも関わらず、私は体も弱かった。病院というところと家で交互に生活するのが当たり前で、同い年の友達も居なかった。日に日に動かなくなる体は、どんな病名なのかわからないけど、私以上に両親が一生懸命だったと思う。自分の意思だけでは動く事はできなくて、その上世界も見れないのだ。果たして、私に生きてる意味があるのだろうか。甲斐甲斐しく介護をしてくれる両親の顔を見ることさえ許されないなんて、酷すぎるのではないだろうか。そんな事を思いながら過ごす日々が、唐突に終わった。私は、死んだのだ。






―――そう、死んだ、はず。








目が覚めたとき、私は始めて世界を見た。色とりどりのものがたくさん輝いていて、思わず涙が出る。わんわんと声を大にして泣き出した私の元に、二人の大人がやってきた。何かを問いかけてくるが、私の泣き声が邪魔をして聞こえない。ひょいっと抱き上げられた体は、すんなりと女性の腕の中に納まった。昔、体感した事のある温もりだった。ああ、そうか。私は、あの世界で死んでしまったのか。この世界にまた、生を受けたのか。結局最期になっても私を愛してくれた両親の顔も見れずに、私はあの人たちを置いてきてしまったのか。幼い私の体は感情を抑えることができなくて、大声で泣いた。その間、ずっと私を抱いていた女性が背中を一定のリズムで叩いてくれる事が嬉しくて、無性に悲しかった。





「お母さん、これ変じゃないかな?」

「あら、とってもよく似合ってるわよ」


少し皺の多くなった母。私の、自慢の母。


「お父さんはどう思う?」

「うん、良いんじゃないかな」


朗らかに笑う父。私の、自慢の父。






ねぇ、私は今、すっごく幸せです。






END.



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特に意味もなく・・・。



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