昼休み、俺は正門付近を通りがかった。
見つけたのはその時だった。
正門のところに、小柄な人影があった。
よく見ると氷帝の制服ではなくパーカーにスカートというラフな格好だった。
出待ちの女子はよくいるが、今日は平日である。
こんな時間にさすがにいるわけがないだろう。
何か用事があるのではないか、と思い立った俺は、彼女に話しかけた。
「おい、どうかしたのか」
突然話しかけられてびっくりしたのか、固まってしまった。
「いきなりすまねぇな。何か用事があったのかと思ったんだ」
「あ、はい・・・・。ちょっと届け物を・・・・」
話を聞くと、なんでも弁当を忘れた近所の先輩に届けにきたらしい。
俺にはよくわからないが、近所のよしみというものなのだろうか。
「そういや何でこんな時間にここにいるんだ?学校はどうした?」
俺がそう言うと、彼女はああ、と納得したような顔をした。
「私の学校、今日は秋休みでないんです」
秋休み。
そういやここの近くの中学はそうだったな。
それより、弁当をどうするかだ。
俺が届けようと思い立ち、そいつの名前を聞くと、衝撃の答えが帰ってきた。
「萩さん・・・・滝さんです」
「・・・・そいつはテニス部の滝か」
コクリと頷く彼女に了解の旨を伝え、そのまま去っていく彼女を見つめた。
「滝!」
そいつの名前を呼ぶと、すぐに振り向いてこちらへ向かってきた。
「どうしたんだい?跡部」
問い掛けてくる滝に弁当を渡すと、少し驚かれた。
これは?と聞いてきたのでさっきのことを話すと、途端に目の色が変わった。
「え!?名前に会ったの!?ちょっと、何もしてないよね!?」
してたら殺すというくらいの勢いで掴みかかられる。
俺が何もしていないことを伝えると大人しくなったが、目がまだ怖い。
そこまで誰かに会わせるのが嫌なのか。
「とりあえず名前のことは誰にも言わないでねー」
「どうしてだ?」
「だって何かされると困るし」
そうクスリと笑う滝は心配性らしい。
「いくらなんでも過保護すぎやしないか?」
「過保護だとしても」
そこで一旦、滝は言葉を切った。
呟いた言葉に、俺は結局呆れるのだった。
「誰かから守って、笑顔が見れるならいいだろう?」
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