仲間


爆豪勝己は、不貞腐れつつも相澤に言われた通り零を半ば強引に持ち上げ、肩に乗せた。

『ひゃっ…!爆豪さ……、』

「見えるか。」

『み、見えますけど…重いですよ?!』

「重くねぇわ、ナメんな。だいたい、爆豪さんはやめろ。きしょく悪ぃって言ってんだろ。」

『か…かっちゃん…』

「……。」

ほかの生徒達に何て呼んでいたのかを聞いた彼女は、恐る恐るそう呟いた。
最初は自分が呼んでいた“クソ女”に対する当てつけだと言っていたが、今ではすっかりその呼び方がしっくり来てしまうほど馴染んでいた。
例えそれが幼い姿であったとしても、声や雰囲気はやっぱり零なのだ。
爆豪はそんな気持ちを素直に受け入れてしまう自分に苛立ちを覚えつつも、頭上にいる彼女を見つめた。

先程まで相澤の上で花火を見ていた時は酷く喜んでいたくせに、今の表情はどことなく曇っている。
相澤の心を読んで何かを察したのか、それとも彼が突然この場を離れて不安に思っているのか。

どちらにせよ、今彼女が眉を下げている原因は彼が関係しているのは確かだ。

「…気になるか。相澤先生が。」

確信を着いた質問をすれば、彼女ははっと驚いては更に複雑そうな様子をみせた。

『…気になります。でも、私が追いかけたところで無意味です。』

「わかってんじゃねぇか。…ならいちいちシケた面してんじゃねぇよ。」

『でも……』

「テメェは腐っても今はガキだ。記憶もねぇ。本来のお前がどう動くか、どう考えるべきかを考えたって、所詮ガキのお前には分かんねぇよ。」

『えっ、なんで……』

どうして自分の心境が分かるんだ、と言わんばかりの驚いた様子で顔を覗き込んだ。

聞かずとも分かる。
元々考え症な零が、今この現状をどう捉えていて、何を思っているのかも。
記憶があろうがなかろうが、そういう思考はそもそも備わったものだと認識していた。
だから分かる。彼女は必死で本来の自分になろうとしているという様子が。

ただ、見ていられなかった。
こんな状況だからこそ、みんなを頼ればいいと思う。
誰かに大人しく守られらばいいと思う。

そう思った時には、気づけば彼女の名を呼んでいた。

「……零。少しは俺達を信用しろ。今のお前にできるのは…今のお前にして欲しいことはそれだけだ。」

『……っ、』

頭のイイヤツだと思う。
自分の口数くすない発言だけでも、こちらが意図して伝えたいものを瞬時に理解してしまう。言葉を失ったのが何よりもの証拠だ。

しばらくすると零は、密かに手のひらに込めていた力がふっと弱まり、目を閉じた。

『…かっちゃんの言う通りです。少し、臆病でしたね……』

「ケッ!その歳で臆病じゃなかったらそれはそれでムカつくんだよ!」

『……結局ムカつくんですね。』

「るせぇな!いいからてめぇは黙って花火見てろ!終わっちまうだろうが!」

そう怒鳴るように彼女に言うと、いつの間にかこの場所にほかの生徒たちが集まり始め、自分が零を肩車している光景に些か驚いたのか、誰もが硬直して言葉を失っている様子だった。

しかし轟がこれを見た瞬間、酷く怪訝そうな表情を浮かべては、冷たい声を放ってきた。

「おい爆豪、何してんだ。変われ。」

「俺に指図すんじゃねぇよ、半分野郎!」

「爆豪、意外と面倒見良いんだな…」

「はァ?!ちげぇわ!」

『か、かっちゃん…よく分かんないけど、もう下ろしてください…』

「てめぇも俺に指図すんじゃねぇよ!黙ってのっとけやクソチビッ!」

『クソ、チビ……』

「ちょ、ちょっとかっちゃん!それはあんまりだよ!零ちゃんがショック受けてるよ!」

「るせぇデクッ!入ってくんな!」

『……』

最早謎の意地が生まれて一向に下ろす気になれないこの状況に、とうとう零は口を噤む。

しかし数秒後。
零が突然ハッとして何かを悟り、急に警戒心を強めるのに気づいた。

「おい、どうした?」

『……っ、ダメっ!みんな離れてッッ……!!』

彼女がそう言って肩から飛び降りた瞬間。
零を中心に立っていた1-Aの生徒たちに突然視界を遮るような光が襲いかかったのだった。


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