仲間


生徒達に屋台巡りをさせてもらい、少し疲れたのか零は自分の元へとやってきた。

偶然なのか意図的に選んだのかは分からないが、彼女の額に付けられたおもちゃの仮面は、本来の“朧”の正装でも使用されるものと同じ、狐の顔をしていた。

「どうだ?お祭りは楽しいか?」

彼女にそう尋ねると、何度も首を縦に振っては目をキラキラさせて、嬉しそうな声色で答えた。

『す、すごいです!私こんなに一度にいろんなものを食べたのも初めてで…“お祭り”ってすごいですね!』

「そうか。良かったな。」

くしゃりと頭を撫でてやれば、擽ったそうに目を細めて首を伸ばす。
まるで猫のようにも見えるその仕草は、愛らしくも思えた。

そんな彼女を眺めていると、向かいの空からヒュルル…とか細い音と共に、空中に響くほどの大きなドォンという音が鳴り、零の小さな肩が驚いて小さく揺れるのを目にした。

「……花火だ。」

『えっ?』

何年かぶりにまともに見た花火を前にボソリと呟くと、彼女も振り返って夜空を見上げた。

しかし人盛りの多い上に、今の彼女のサイズでは花火を見ることすらままならない。
その場でジャンプしてみたり、少し位置を変えてみたりで、必死に花火を見ようとする零の行動は、とても子供らしく思えた。
なんだかんだ言ってもまだ子供だ。
もっとも、こんな場所であれば本来の零も飛び跳ねて喜ぶような気もするが…
呑気にそう考えつつも、彼女の小さな体を軽く持ち上げ、肩に乗せて肩車をしてやった。

『わわっ、消太さん?!』

「これなら見えるだろ。」

頭上にいる零に目線だけ向けてはそう尋ねると、直ぐに彼女の視界に入り込んだ花火を見ては、わぁっと歓喜の声を上げた。

『すごい……本物の花火だ……』

「見るのは初めてか。」

『そ、そんな事ないですよ。よく、導火線に火をつけて飛ばしたり、味方になにか知らせたりする時にあげたり…』

「おい…それ、閃光弾とか烽火の話だろ。謎な天然っぷりはやめろ。」

見栄をはろうとする彼女に思わず目を細めて突っ込むと、ぐっと言葉を詰まらせるのを目の当たりにする。

そんな彼女が可愛らしく見えては、思わず声を出して笑った。

「ははっ!ほんとお前は…面白い奴だよ。」

『…もう、笑いすぎです。』

ムスッと口をとがらせてすねた様子を浮かべるも、再びあがる花火にまたもや釘付けになる。

しばらくは花火に夢中にさせてやるか、と親心を抱きつつ見守っていると、ポケットに入っている携帯が振動し始めたのに気が付いた。

彼女に悟られぬよう着信相手を確認するも、そのディスプレイに浮かんだ文字が“久我”だったのに顔を顰めた。

この短時間で何かを掴んだのかもしれない…と咄嗟に考えたせいか、頭上にいた彼女がそれに気づき、不安そうな声で尋ねた。

『…何か、あったんですか?』

「いや……どうかな。まぁ大丈夫だ。お前が気にすることじゃない。ただ、悪いが少し電話してくる。」

『…はい。』

一旦彼女を下ろし、頭を撫でて不安を和らげたあと、近くで花火を見上げる見慣れた背中を目にし、声をかけた。

「おい、爆豪。すまんが俺の代わりに肩車してやってくれ。」

「……はぁ?!なんで俺が、」

「悪いが急用だ。すぐ戻る。それまで目を離すなよ。」

「ちょっ……!」

何やら不満げな顔をしている彼に背を向け、その場を駆け足で去る。

この電話がこれから何が起こるかを告げるものだとは知らずに、呑気にも彼に肩車されている零を微笑ましく見つめながら、祭りの場をあとにしたのだった。


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