仲間


久我透は、書斎に入り込んできた冷ややかな風が頬にあたり、目を覚ました。

「……しまった。」

起床と同時に情けなく言葉を吐き出して、上にかぶさっていた本を退かす。

ここ最近ある捜査で徹夜続きだったせいか、一瞬気を抜いただけで睡魔に負けてしまった。

どうも零といると、不思議と気が緩んでしまう。
それが長年この国を守る存在として手を組んでいる彼女に気を許しているのか、はたまた私情で彼女を想う気持ちから来ているのかは知らないが、自身の情けない姿を見せてしまったのは不覚だった。

「すみません、どうやら少し眠ってしまって………朧?」

重い体を起こし周囲を見渡してみるも、物音どころか零の姿が見えない。

どこか別の部屋にでも移動したのかと考え、書斎を出ようとしたその矢先。

微かに血の匂いを感じ、一瞬にして警戒心を強めたと同時に嫌な予感が走った。

「……っ、まさか!!」

慌てて走り出し、がむしゃらに襖をあけて外へと向かう。

そして縁側へと続く襖が見えたとほぼ同時に、彼女が地面に跪き、崩れ落ちていく光景を目にした。

「……っ、朧っ!!」

無我夢中で名を呼び、走りながらも腰に据えた拳銃を手に取り、迷わず引き金を引いた。

「跳弾制御ッ!」

個性である“銃弾制御”のうちのひとつ、跳弾を発動させて数弾放ち、彼女へ攻撃を加えようとする影を遠ざけた。
その隙に血を流してその場に倒れている零へと駆け寄り、危機的状況である事を瞬時に悟った。

「……っ、何者だッ!」

先方にいる三つの敵から庇うように零の前へと立ち、銃口を向ける。

月の灯りに照らされたその連中は、後ろで横たわっている彼女とは違えど、“忍”と分かる装束を纏っているのがひと目でわかり、激しく動揺を覚えた。

「なっ……」

「…警察庁公安部、久我透捜査官殿か。まさか貴方もここにいたとはな…まぁいい。息の根は止めれずとも、とりあえずあの女は再起不能だ。撤退するぞ。」

「なにッ?!」

張りのある声で一人の男がそう告げた事にさらに驚くも、奴らは一瞬で姿を消し去ってしまった。

ひとまず敵が居なくなったことを確認した後、後方にいる零の元へと急いで駆け寄り、その身体を抱き起こした。

「しっかりしてください、朧ッ!……零ッッ!!」

咄嗟に感情的になりつつ彼女の名を呼ぶと、閉じていた瞳が僅かに反応し、ゆっくりと瞼を上げた。

『久我さ……ごめんなさ…』

「喋るな!今手当をッ……!」

抱き抱えている腕に、彼女の血が流れ伝ってくるのが分かり、無意識に口調が荒くなる。

まさか自分が少しうつつを抜かしていた隙に、彼女がこんな事になってしまうなんて……。
そう自身を責めつつも応急手当で止血をしようと、着ていた服を乱暴に破り、傷口へと巻きつける。

そんな中、彼女の弱々しい声が再び届いた。

『久我さ……望月家の者です…個性を使われました……私、このままじゃ…。』

「望月……?何言ってる!諦めるなッ!」

『違うんです……そういう意味じゃなく、て……それより久我さんも気をつけないと、敵はすぐ……ちか、』

「……っ、おい、しっかりしろ!零ッ!!」

零の弱々しい声は途中でぱたりと途絶え、彼女の体が急にずっしりと重みが増すのを感じた。

彼女の容態に焦るばかりで冷静な判断ができない中、抱き抱えているその体がみるみる変化を遂げていき、ものの数秒で別人のような姿に成り果てていく光景を目にし、思わず驚きの声を零した。

「これ、は……」

一体零の身に何が起きたと言うのだろう…。
突然突きつけられた現状に目を奪われ、動揺しつつもひとまず震えた手である男に連絡を取り始めたのだった。


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