仲間


半日を経て、久方ぶりに屋敷へと戻ってきた零は、到着して早々書斎へと向かった。

「へぇ…これが服部家の伝書ですか。」

同行を依頼した男、久我透がそう呟きつつも手元に本を取ってパラパラとめくる。
薄暗い灯りの中でも分かるその金糸の髪を眺めながら、小さく溜息をこぼし言葉を返した。

『無闇に読まないでくださいよ。それ、一応一族の中では極秘資料なんですから。』

「はいはい。僕は適当に時間潰してますので、お気になさらず。」

『……』

適当にあしらうも、手当り次第書棚にある本を眺める彼に目を細めた。

久我透。
若くして警察庁公安部に所属の捜査官で、諜報活動や極秘捜査を中心に担当している男…いわばキャリア組の一人だ。
そして警察側から自分に仕事を回す際の仲介役でもあり、自分を含めた隠密ヒーローを束ねる存在でもある。
彼とはもう何年もの付き合いになるが、未だに考えていることはいまいち読めない、いわば謎の男に匹敵する。

しかし相澤とオールマイトが心配する中で、雄英高校の関係者以外で動向を依頼できるといえば、彼しか思いつかず、こうして同行を頼んだ訳だが…。

「あれ、もしかして僕が調べ物の妨げになってます?」

爽やかな笑顔をうかべてそう言う彼に、大きくため息を零す。
その通りだ、と言ってやりたいものの、仕事がある忙しい身でここまで着いてきてくれた彼にそうきつくは言えない。

『まぁ、今更知られてまずいものはないですし…どうせぬかりのない貴方なら、大方私の家系のことも調べあげてるでしょうから、いいんですけどね。』

「ははっ、バレましたか。」

『……。でも、どうしてすんなり同行してくれたんですか?頼んどいて何ですけど、久我さんって常に膨大な仕事を抱えてるんでしょう?他の捜査官たちが話してるのを小耳に挟みましたよ。』

父の日記を探しつつも彼にそう尋ねると、同じように書棚に目線を向けたままそれに答えた。

「まぁ確かに暇とは言い難いですけど…貴方が敵に知られ始めてる以上、迂闊に1人で動かれて何かあっては僕も困りますし……なにより、せっかくの貴方からの貴重なお誘いを断るわけにはいきませんよ。」

『……』

数歩先にいるこちらに目を向けて微笑む彼の言葉に、思わず手を止めてぎょっとして見返した。

久我は昔から仕事に対しては厳しく、決して失敗を許さない男だ。
最も今まで自分の任務が成功しているのも、正直言って彼が適切な指示や判断をしてくれる事が多いというのもある。
普段仕事上で接する“朧”として向き合う時の久我は、優しい言葉をかけたり、甘やかすような素振りなど以ての外だ。
ただ、時折こうして任務ではない時に彼と会うと、決まってこういう歯の浮くようなセリフをさらりと吐き出す。

あまり異性と深い交流のない零にとって、相澤と正反対の彼の言動はいつも不思議だった。

「おや?無反応は傷つきますね。せっかく僕が素直に喜んでいる事を打ち明けたのに。」

『…久我さんのその仕事モードとプライベートの切り替え具合、どうにかならないんですか?』

「君に言われたくはありませんよ。」

呆れながらに零した言葉も、否定できない返しに言葉が詰まる。
いつもそうだ。
この凄まじい頭脳を持っている久我に、口で勝てたことは一度たりともない。

ふつふつと調子を崩されるのを感じながらも、ひとまず書棚を見渡すことに集中させたのだった。


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