背負うもの
爆豪勝己は、先方にいる交戦相手に一番に攻め入り始めた。
走るよりも手のひらを爆発させて加速し、自分にとっての最速で勝負に挑み、距離を縮めた。
「くたばれクソ女ァッ!」
間合いに入る直前、アーマーを朧へと向けて発射の引き金を引こうと構える。
しかし未だに棒立ちしている彼女を見て、更に苛立ちを増し、攻撃とともに暴言が上乗せしていた。
「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞッ!くらえッッ!!」
自分の爆発の影響で、朧の姿が煙により包まれる。
手応えはあった。
ギリギリで交わしていたとしても、今のを少しも当たらず免れるのは距離的に不可能だ。
案外こちらの力を見誤って反応に遅れたのかもしれない。
相澤が言う割には、随分とあっけなかったと思いつつも、勝利の笑みを浮かべようとしたその瞬間。
『…何を勝った気でいる?』
耳元で囁かれたと同時に、背筋がぞっと凍りつくような寒気が走った。
「……っ、」
慌てて振り向くも、その先にある仮面でどんな表情を浮かべているかも分からない。
それよりも本能的に目の前の存在を恐れ、危険だと判断した身体は身動きひとつとれなくなっていた。
ーーまずい、こいつは桁違いの力の差を持つ…バケモンだ。
直感でそう悟った。
そんな矢先、彼女は手にしていた木刀を振りかざし、素早く腹部に当てられては物凄い勢いで数メートル飛ばされた。
「がはっ……」
一直線に背中から壁に激突し、一瞬肺の機能が停止する。
前方には朧がこちらを見ており、その姿を目にして再び身を震わせた。
「…んだ、あの速さはっ……!」
掠れた声で独り言を吐き出す。
触れられた記憶はない。それなら心を読まれて事前から攻撃を読まれてはいないはずだ。なら一体どうやって、あれだけの至近距離での攻撃を避けたというのだろう。
見せつけられた力の差に絶望と動揺を露わにしながらも、未だ動かせない身体に苛立ちを覚えた。
そんな中、他の生徒たちが彼女へと攻め始めるのを目にした。
1対1で挑んだ自分の結果からか、今度は四人同時に攻め入る。
耳郎は床にイヤホンジャッグを刺し、ハートビートファズを放つ。
朧がそれを避けるため、後方へ飛んだ隙をつき常闇が近ダークシャドウを放ち、障子手を複製して殴り掛かる。
しかし地が足につかない状態何も関わらず、彼女は片手に持つ木刀一本でその攻撃を軽々と全て受け止めていた。
そして一瞬攻撃が止んだ隙を見て、先程自分が食らったのとほぼ同じように、一太刀すると斬撃で全員が吹き飛ばされていった。
「……っ、」
言葉を失い息を飲む程の強さだった。
まるでこちらの動きもすべて見えているようなほど、動きに無駄がなく適切に反撃をしてくる。
読心の個性も、結界の個性も発動しているようには見えない。
恐らく彼女が今までに服部家とやらの氏名を授ったがゆえに、身についた身体能力と戦闘センスの賜物だ。
悔しいが、とてもじゃないが勝機は見えない。
それでも何か手はないかと必死に思考を凝らす間に、次の攻撃が始まっていた。
今度は緑谷、轟、飯田、麗日、上鳴のメンバーだった。
ここに自分が入れば、少しは勝算があるかもしれない。
そう思い、全身打撲で痛めた体を無理矢理起こしては、交戦の場へと一歩ずつ近づくために歩みだしたのだった。