得て、失って
零の容態の説明を受けたあと、ナイトアイの最期を見とるため、相澤やオールマイト達と共に病室へと入った。
平和の象徴、オールマイトの相棒と呼ばれた強いヒーローが、医療機器に囲まれて衰弱している姿を見るのは、あまりにも意外で、あまりにも残酷だった。
緑谷出久は彼を救えなかった事に自身を攻め、密かに拳を握りしめつつも、弱々しい声でする彼の話に耳を傾けた。
彼はずっと、オールマイトの未来を見てしまったことを後悔していた。
それは自分が個性を使って見た未来ではなく、自分が見たものを未来に起こしてしまうのではないかと考え、あの時初めて未来に抗いたいと思ったという。
そしてオールマイトが彼のみた未来に抗い始めた事と、今回自分が未来を変えた事で、ひとつの仮説に辿り着いたと説明した。
「思うに、エネルギーなんじゃないかと思うんだ。疑念の入る余地のないビジョン、未来を望むエネルギー…。きっと緑谷だけじゃない。みんなが強く、信じ紡いだ…そのエネルギーが、緑谷に収束され放たれた結果なんじゃないか……?未来は不確かで、あなたは考えを改めてくれた。私はそれで充分。……ただ、心残りは……」
「サーッッ!!」
「通形、先輩ッ……!」
ボロボロで傷を負った体を引きずって現れた彼は、真っ直ぐにナイトアイの元へ寄り添い、涙を浮かべながら必死に嘆いた。
「生きてくださいッ!死ぬなんてダメだぁっ……」
今まで必死に育ててくれた彼への強い思い、生きて欲しい願いをのせて、彼は胸の内を吐き出した。
ナイトアイも通形のその様子をじっと見つめ、彼の話を聞く。
そして震えた手を伸ばし、彼の頬にそっと手を添えて個性を発動した。
「ミリオ…大丈夫。お前は、誰より立派なヒーローになってる。この未来だけは、変えてはいけないなぁ。」
「……っ、」
言葉にならなかった。
二人は互いを信じ、互いを認め合い今まで一緒に活動してきたはずた。
二人のやり取りをただ聞くことしか出来なかった自分は、通形と同じように涙を零しそれを見守っていた。
だがそんな時、奥の病室が扉越しに騒がしくなるのを耳にした。
ーーダメです!そんな体で動いたらあなたがッ!
ーー離してくださいッ!私に触らないでッッ!!
声が聞こえたかと思えば、ガシャン、と大きく音を立てた直後、自動ドアが静かに開く。
そして次に映った光景は、零が酸素マスクを装着し、身体中に医療器具を纏ったままの状態で壁を支えに立っている衝撃的なものだった。
「零さっ……!」
「零くん!」
「零ッッ!」
危険な状態だと知らされていた彼女が、どういう訳か目を覚まして立っている。顔色が良くないのは一目見て分かるというのに、彼女は乱暴に器具を外しながら必死になって壁を伝い、ボロボロの状態でナイトアイの元へ歩み寄ろうと足を動かし始めたのだった。