得て、失って


緑谷が全力のワンフォーオールの力で治崎を倒した後、彼が背負っていた壊理の個性が暴走を始めた。
急いで麗日に頼んで彼らの前へと移動してもらい、背中を彼女に支えてもらいながらなんとか震える腕を持ち上げた。

結界の個性は、自分の視野に入る場所にしか発動できない。
真っ赤に染まった指先と指先を揃え、三角を描いては二人の姿をその中へ捉え、力の限り叫んだ。

『無効化…結界っっ!』

全身に電撃を浴びるような痛みと共に、個性を使った反動で体中の皮膚が避け始める。

「零さんっ、そんな無理したら…!」

後方で麗日が止める声が聞こえるも、その手を止める事はなかった。
自分と同じ運命を辿らせたくない壊理と、これから先輝かしいヒーローになって欲しい緑谷をこの場で放っておくことなど、今の自分にはとてもじゃないができなかった。

しかし残された力は微量で、自分の結界だけでは壊理の力を消すには到底足らない。
こんな時のためにとっていた力を使っても役に立たないなんて、何が最強の個性だ。
そう自分を攻め立てた瞬間、ドサリと隣に荒々しく座り込んだ彼の姿が視界に入り込んだ。

「…俺がやる。」

そう零した相澤の小さな声は酷く弱々しく、体を見れば至る所に傷を負っていた。

そんな体で個性を発動すれば、彼も更に容態を悪化させてしまう。
しかし彼がその言葉を素直に聞きいれてくれるとは思えないので、残る力を最大限に振り絞り、彼の抹消の個性と共に再度結界の威力を強めた。

「個性が…!」

麗日の驚きの声と共に、壊理と緑谷を纏っていた強い光がフッと消えその場に崩れ落ちた。

それとほぼ同時に結界がパリン、と大きな音を立てて空中へと散り、体内に流れる血液が逆流して口から溢れ出した。

「零さんっっ!!」

必死で心配そうに見つめる麗日の顔を目にする。
そして気づけば隣には、ボロボロの姿になった相澤が寄り添い、真っ青な顔をしては体を抱き上げた。

「……バカ、無茶するな!」

『無茶は…どっちですか…消太さん、ボロボロですよ…』

不謹慎にもははっと声を出して笑うも、とうに限界を超えていたせいで、指先ですら動かせぬほど感覚がなかった。

皆が名を呼ぶ声が、徐々に遠くなっていくのが聞こえる。

ようやく治崎との闘いも終わり、壊理を救えた。
それを見届けて、少しだけ自分自身も救われたような感覚になった。

そして何よりも、あれだけ個性を嫌っていた自分が……。
個性を使えない事に、酷く動揺と焦りを抱いていた。

ようやく、自分の個性と向き合えるようになったのかもしれない。
もしまた目覚めたら、こんな自分を友人のように受け入れてくれた1-Aの皆にだけは、真実を話そう。

そんなことを思いながら、申し訳ない気持ちを抱きつつもその場で意識を手放した。



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