得て、失って


轟が部屋を訪れた日の夜、スマホに壊理の救出計画の決行日の連絡が入った。

翌日の早朝、先日の会議で集まったメンバーが再びナイトアイ事務所に集結し、八斎會組長宅へ乗り込むために総出で出発する。

緑谷出久は、昨日轟と約束したこと。そしてミリオと共に誓った壊理の救出を再度心の中で意識し、現場へと向かった。

ーーーー


開幕と同時に戦闘は始まった。
入口はリューキュウ率いる、麗日、蛙吹、波動の三人が戦闘に加わり、敵の足止めをする。

そしてバブルガールは地下へと繋がる手前で襲いかかってきた組の連中を制圧し、ほかのメンバーは先へと急いだ。


道中はミミックという男に通路を妨害され、味方は散り散りにされ、負傷者も徐々に現れ始め、事態は難航した。
別行動になってしまった切島やファットガムの事を気が気出なかったが、他のヒーローの意思を無駄にしてはいけないと何度も自分に言い聞かせ、壊理の元へと足を動かした。


しかし、待ち構えていた現実は思った以上に最悪だったーーー


途中で他の敵の足止め役をかって出たヒーローを気にかけながらも前方を見つめ走りゆく中、個性が衝突し合う気配を感じた。
闇雲に個性を発動して壁を壊して突入すると、その先にいた治崎ごと勢いよく蹴りが入った。

足を止め現状を確認しようと当たりを見渡すと、ミリオのボロボロの姿が最初に目に入る。
そしてその隣には、座り込んで怯えている壊理の姿。

そこから数メートル離れた位置に、零が気を失って地面に倒れている姿を捉えた瞬間、息を飲んだ。

「「朧ッッ!?」」

それとほぼ同時刻に、後方からやってきた相澤とナイトアイの声が重なりその名を呼ぶ。
しかし、彼女の反応は一切ない。
両手足を鎖で拘束されていて、体の至る所に軽傷ではあるが傷を負っているのがわかる。
ピクリとも動かない彼女の様子から目が逸らせなくなり、酷く動揺して身を震わせた。

「くっ…緑谷!朧はあとだ!ルミリオンがここまで追い詰めた!このまま畳み掛けるぞっ!」

「はっ、はいっ!!」

何よりも彼女の元へ駆け寄りたいであろう相澤がそう指示を出すのであれば、自分だけ零の元へ駆け寄って安否の確認をとろうだのという考えは貫けない。

体の向きをかえ、その場から治崎へと一直線に駆けだした。
隣を走る相澤が奴の個性を消している今、たたみかけるしか無い。

そう判断し、急いで一気に総攻撃をしかける矢先。
突然、別の箇所から敵の攻撃が襲いかかった。
気づけば相澤に庇われ、彼が空中で交わしながらなんとか軽傷で済ませたが、そのせいで彼の個性の効果が切れてしまった。

瞬間、治崎の広範囲の攻撃が再び目の前に襲いかかった。

「……っ、!」

何とか紙一重で交わし、着地する。
その間に治崎は部下を分解して自分と融合し、更なる力を持って立ち上がった。
圧倒的な力の差に思わず顔をひきつらせ、息を飲んだ。

ーー状況を把握しろ!!

動揺しながらも自分にそう言い聞かせ、周囲を素早く確認する。
無数の棘のように成り果てた地面の中、壊理とミリオ、そして零の身体をギリギリで支えながら救助し、守ってくれたナイトアイの姿を見ては、少しばかり安堵した。

だが一緒に飛び出した相澤と、敵の白いフードを被った男の姿はどこにもない。

おまけに目の前にいる治崎は、先程までボロボロだったのとはまるで別人だ。
ルミリオンが追い詰めたはずの傷も何一つ残ってはおらず、更には融合した仲間の個性を新たに手にしていた。
そして奴は笑いながら語り始めた。

「…悲しい人生だったなぁ、ルミリオン。壊理に…俺に関わらなければ、個性を永遠に失う事もなかった。」

「個性を……永遠に失う……?!」

「関わらなければ、永遠に夢を見たままで居られた。失ってなお粘って、そしてその結果が仲間を巻き込み、全員死ぬだけなんてなぁッ!」

言い終えたとともに、ナイトアイたちの元へ治崎が駆け寄り始めた。
何とか阻止せねば…と、近くの針を砕き奴に打ち付けた。

だが、あっさりとその攻撃は止められる。
動きが読めない。
どんな個性が使えるかもわからない以上、迂闊に間合いに入るとやられてしまう……!

「こいつの相手は私がするっ!貴様はルミリオンと朧と壊理ちゃんを!!」

「了解ですっっ!!」

突然聞こえてきたナイトアイの声に、頼もしさを抱きつつ指示通り三人の元へと駆け出した。

「イレイザーヘッドをどこへやった!」

「零と同じように個性を消すヒーローには興味があるんでね。VIPルームに案内しといたよ。」

走る背後で二人の会話を耳にし、足は動かすものの動揺を覚えた。
相澤と零が同じように個性を消すヒーロー?
彼女の個性は“結界”と“読心”の二つのはずだ。
そう疑問を抱くも、ナイトアイの感情的な発言は続いた。

「零の個性の特徴を知って狙ったのか…。彼女に何をした!」

「一時的に個性を使えないようにしてるだけさ…。それより貴様らは何か勘違いをしているようだが…俺は彼女の輝かしい未来に手助けをしてやってるんだ。邪魔しないでくれよ…!」

「…零の輝かしい未来…だと?」

ナイトアイの動きが止まり、酷く怒りに満ちた表情を捉えた。
治崎はそんな彼を目前にしても、正論を語るように話を続けた。

「零の本心は、個性を恨んでいる。アイツこそ、俺の望む個性を破壊した世界を誰よりも望んでいるはずだ!」

「…っ、」

何も言い返さないナイトアイを見て、更に動揺を覚えた。
治崎と零の関係がどんな深いものなのかは知らないが、付き合いが長いであろうナイトアイが奴の言葉を既に否定できなかった事に、尚その発言の真実味が増したからだ。

治崎とナイトアイが向き合って立つ中、零のもとへと到着し枷を壊しつつも、どうしてもそのやり取りから目を逸らす事はできなかった。




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