得て、失って
今回のナイトアイの作戦に加わった雄英高校の生徒たちは皆、一つのテーブルを囲んで腰を下ろしていた。
それぞれの俯く姿勢は、唐突に叩き込まれた現実の問題についていくのに、誰もがやっとだったのだと思う。
緑谷は、最後に出てきた“朧”の存在をこのメンバーに打ち明けようか悩んでいた。
話せばきっと、他のみんなも彼女を助けようと力を貸してくれるはずなのは分かっている。
しかしどうしても、零と治崎に捕らわれている朧というヒーローが同一人物だと言うことを、自分の口から伝えていいものなのかと悩んでいた。
そんな時。
少し離れた位置にあるエレベーターから、相澤が降りてこちらに向かって歩いてくるのを目にした。
「通夜でもしてんのか?」
「せ、先生っ!」
「学外ではイレイザーヘッドで通せ。」
相澤はあんな話をした後でもいつもの様子と変わらず、落ち着いた様子だった。
「あ、あの…あい……イレイザーヘッド。」
「なんだ緑谷。」
「さっきの…朧さんの件なんですが……」
口に出しては、悔しさゆえに歯を食いしばる。
壊理に加えて近くにいたはずの零の危機に気づかず、どの口が彼女の望んでいない事実を他の皆に話すと言うのだろう。
己の不甲斐なさに浸っている中、相澤が「あぁ……」と静かにこぼした。
「お前がそこまで知ってたとはな、緑谷。」
「え?どういう事?デクくん。」
「そういえば緑谷ちゃん、さっきの会議の時もその“朧”って人と面識があるような話し方をしていたけれど…」
「もしかして、お前も他のプロヒーローしか知らない様な隠密ヒーローと知り合いなのか?」
麗日に続き、蛙吹と切島もそう尋ねるが、とてもでは無いが答えられなかった。
それを聞いていた相澤が代わりに口を開いた。
「緑谷だけじゃない。さっき話しに出た“朧”というヒーローは、お前たちとも面識がある。」
「えっ?」
「ど、どういう事だよイレイザーヘッド!」
「……朧は、零だ。」
「「「なっ……!?」」」
酷く動揺した様子で、勢いのあまり切島が立ち上がる。
蛙吹と麗日もサッと血の気が引くように顔を青ざめて、言葉を失っていた。
「零が最初にウチに来た時、緑谷が言ってただろ。無名ではないが訳あって公に活躍ができない、と。そして奴本人も、ヒーロー名は敢えて明かさなかった。あいつの正体は、この世界に溢れる敵が何を企んでいるのか、何をしようとしているのかを探り出す最も重要な諜報活動を中心とする、“朧”なんだ。」
「嘘だろ……じゃ、じゃあ今八斎會に捕らわれてるっていうヒーローは…」
「僕らの護衛として配属してきた、零さんだ…」
再び胸がぎゅっと締め付けられる。
彼らがその真実を知り、零に身の危険が迫っているという真実を突きつけられ、居た堪れない気持ちになるのは最もだ。
「じゃあ。零さんも…いや、“朧”さんも助けなきゃだな。」
切島の静かな意見に、麗日と蛙吹も賛同の頷きを見せた。
「……うん、もちろん!!」
彼女を助けたいと思ってくれるヒーローが増えるのは、正直心強い。たとえそれが同じインターン組でも尚更だ。
しかし、相澤はそんな自分達に容赦ない言葉を突き立てた。
「…いやぁしかし、今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなぁ。」
「えぇっ?!今更なんで……!」
切島の驚きに、彼は敵連合と関与していると話が出ていた事を再度指摘する。
たしかに今回の計画は、自分たちにとって危険すぎるかもしれない。
それでも、二人を助けたい。
今度こそこの手を、離したくない!
その強い思いを抱いたのが相澤に伝わったのか、結果として見届けてくれるという、力強い約束をしてくれた。
そしてプロヒーローたちが確かな情報を掴むために動いている中、インターン組は指示があるまで待機となった。