時には休息を。
相澤消太は零を病院へ連れて行ったあと、ようやく学校に戻ってきてはHRを行うために教室へと訪れた。
扉を開けた途端に生徒たちの視線がどっとこちらへ向き、不安げな声があがった。
「先生!零さんのご容態は…?!」
「零さん、大丈夫なんスか?!もしかして何かの病気とか?!」
「ちょっと落ち着け、お前ら。ちゃんと説明してやるから…」
軽くパニック状態になりかけている生徒たちを前に小さく息を吐き、ひとまず各自席に座るよう指示をした。
正直零が倒れた、という事実だけで予想以上の狼狽えっぷりだ。
あの後の授業も大方、心此処に在らずで受けていたのだろう。
一度教室全体を見渡しては、彼らに説明するべくゆっくりと口を開けた。
「零はただの熱中症だ。医者が言うには2、3日安静にしてれば問題ないそうだ。」
「熱中症…ですか。」
「でも入院とかにならなくてよかったぁ…」
彼らがホッと胸を撫でおろし、安堵した表情を浮かべる。
それにつられて自分も口元を緩めると、ふと轟と目があった。
「じゃあ零はしばらく職員寮で生活するって事ですか?」
「…いや、本人の希望で自室で安静にしたいそうだ。幸いにも明日は土曜日。学校もない事だし、お前らも十分に配慮してやってくれ。」
「「了解です!!」」
「俺も面倒見れるときは様子を見に行くつもりだ。世話かけて悪いな、お前ら。」
そう情けなく零すと、生徒たちは首を左右に振り、頼もしい発言が飛び交った。
「いえ!零さんには普段お世話になってるので、当たり前のことです!」
「今週末は比較的、大人しくしとこうね。零さんに心配とか迷惑かけちゃ悪いし!」
「零さんも、少しは僕らを頼ってくれるといいなぁ…」
皆が皆、零を心から心配し、力になろうとしてくれている。
こんな声を彼女本人が耳にしたら、さぞ喜ばしい事だろう。
しかし、それを素直に受け止められない心境ではあった。
彼女の事を大切に想う純粋な生徒たちを目の当たりにし、安堵する反面密かに複雑な感情を抱いたのだ。
今回零がこんな事態になってしまったのは、間違いなく自分の責任だ。
そして生徒たちにも、余計な心配をかけさせてしまう事になってしまった。
密かに自身を責め立てる感情を押し殺しながら、ひとまずHRを終え、教室を後にするのだった。