Valentine day


零は女子生徒たちの買い物を楽しむ姿を見守る中、心の中ではある疑問について考えていた。

昨夜バレンタインデーというイベント事の話を聞き、チョコを作るにあたって、誰にあげるべきかを悩んでいたのだ。

“お世話になっている人”であげるのであれば、相澤を始め雄英高校の職員たちは間違いなくそこに当てはまる。

それだけでは無い。性別を超えても問題ないのであれば、今目の前にいる彼女達を含め1-Aのクラス全員も同じことが言える。

自分にとって、渡す相手を1人に絞るのは難しい話だ。
順位をつけるのも難しい。

ただ、もしその中で最もお礼の気持ちを述べたいのなら……

そう考えると、必然と4人の顔が思い浮かんだ。
しかしこちらが把握している好み上、中には甘いものが苦手…というか滅法食べない人もいる。

それを、知っていてもなおその人にあげていいものか…と考えているうちに、買い物を終えた生徒たちが自分の元へと戻ってきた。

「零さん、買い物終わったよ!」

『よかった。じゃあ帰って早速調理しましょうか。』

「「イエッサー!!」」

いつになく一致団結する女子たちを見て、微笑ましくなりつつも寮へと戻った。


ーーー

「「「できたぁっっ!!!」」」

自室にて調理を行って二時間程経った頃。
ようやくカップフォンダンショコラが完成し、女子生徒達は飛び跳ねるように喜んだ。

「零さん、手際よすぎ!っていうか、料理上手やね!」

『え、そうかな?前はほら、屋敷に一人だったから暇なときこういうの作ってて…』

「零さんの新たな発見ですわね!」

『でも、人に教えた事なんてなかったし…上手くできてよかったよ。これでみんなも、明日に渡せるね。』

そう返すと、誰もが嬉しそうな笑みを浮かべながら、次はどう渡して驚かそうかの会議を始めだした。

そんな中で、出来上がったカップケーキを見つめながら何か思い込んでいる一人の麗日に目がいき、傍へと寄って小さく耳打ちした。

『麗日さんは、別でもう一つ作ったら?』

「ひゃっ!…零さん!」

突然背後から声をかけたせいか、ビクッと肩を跳ねて慌てて振り返る彼女の様子を見て、小さく笑った。

『いるんでしょ?他の男子とは少し別のものを渡したい人が。』

「あ、あははは…零さんには何でもお見通しやなぁ。」

苦笑いを浮かべて後ろ頭を摩る彼女は、頬を真っ赤にして情けなく声をあげた。
特に個性を使って読み取ったわけではないが、この子の熱い視線やいつも前向きでいる姿勢が、一人の男の子からの影響だという事は知っていた。
他の皆は気づいていないのかもしれないが、いつも他の皆とは違うもう一歩離れた位置から見ている自分にとっては、そういうのがひしひしと伝わってくる。
加えて彼女のこの素直なリアクションを見るに、自分の考えが確信へと変わった。

そんな中で、彼女はふと思い詰めた様子を浮かべ、「でも…」と零したのだ。

「正直よく分からへん。他の男の子とは存在感が違うのは間違いないんやけど…こういう時渡したらいいものか…。」

そう零す彼女の悩みに、どう返すべきか分からなかった。
自分だってそもそも異性としての好意の気持ちが分からないのに、年上としてどうアドバイスしてやればいいのか、どう背中を押してやればいいのか分からない。
けれど麗日が密かにこうした本音を零してくれるのは、自分にとってはとても嬉しいことでもある。

『その点に関しては私もよく分からないけど…。でもさ、今こうして麗日さんが思っている事を隠し続けるのは、少しもったいない気もするよね。』

「…?」

『例えばだけど、イベント事に縛られずにさ。同じヒーローを目指す者として“これからも頑張って!”っていうエールの意味を込めて送ればいいんじゃないかな?そういうのって、案外嬉しいと思うし…それに“彼”ならまず素直に喜んでくれると思うよ。』

「確かに!なんか私自身が“バレンタイン”っていうのに固執してたわ…」

『そう。バレンタインに固執してない私だから言えるささやかなアドバイスだね。』

けらっと笑いながら言うと、彼女もつられて笑った。
そして少しだけ晴れた顔をして、他の皆と同じようにどう渡すかという会議に参加し始めた。

零は楽しそうな彼女達を見つめては、心から上手くいくといいなぁ…なんて切に願うのだった。


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