Valentine day


翌日の放課後。
女子生徒たちが零の手を引っ張り、いそいそと寮を出て行くのを目撃した男子たちは、共用スペースにて緊急会議を行っていた。

緑谷出久は、隣に座る轟と同様浮かない顔をしつつも、峰田と上鳴が仕切る会議に同席していた。

「明日は待ちに待ったバレンタインデーだぜぃっ!」

「さっき女子達が零さんを連れて出ていったのは…間違いなくチョコを買いに行くと俺は見たっ!!」

ノリノリな二人を見て、自然と顔が苦笑いを浮かべる。
もちろん爆豪は半ば強制的に上鳴に参加させられており、不機嫌極まりない様子がこちらにまでヒシヒシと伝わってきていた。

「けっ、くだらねぇ。」

「何がくだらねぇんだよ、爆豪。気にならねぇのか?零さんが誰にチョコあげんのか。」

「気になるわけねぇだろ、クソがッ!!」

「なんだよーつれないなぁ。轟は気にならねぇのか?」

「……」

突然話を振られた轟は、上鳴の問いかけに素直に悩んでいた。
彼が零の事を思う気持ちは特別だ。
本人は自覚していないが、恐らく異性として好意を抱いているのは、ほかの生徒たちの目から見て明白。
ここぞとばかりに自覚させようとしているのか、さらに上鳴は彼に食いついた。

「じゃあ、零さんが知らない間に誰かにチョコ渡して告白してたらお前どう思うよ?」

「む…それはなんか少し複雑だな…」

「そうだろ?!」

「上鳴くん、それはなんでも極端じゃ…」

「今となっては皆がアイドル、零さんが誰にチョコを渡すのか気になるだろーがっ!だから探るんだよ!誰が誰にチョコを渡すのか!」

「バレンタインって、そういうもんなのか…」

「いや、轟くん!さすがに違うよ!」

純粋に受け止めようとする轟を前に、慌てて否定をするも既に彼の耳にその声は届いていなかった。

一旦上鳴と峰田が2人で燃えたぎっている間、ほかの男子たちの中でもその話題が続いた。

「轟なんかは、過去にもチョコとかいろんな奴とかから貰ってそうだよな。お前ら、中学時代の時どうだった?」

切島に振られ、各々はうーん…と考える。

「よく分からねぇが…朝登校したら靴箱の中にチョコがいっぱい入ってた…」

「お前は敵だ、轟ィィッッ!」

急に彼の答えに峰田がすかさず入り嘆きの一言を飛ばすも、それに続けて切島が隣に座る爆豪に同じことを尋ねた。

「はぁ?!入ってるわけねぇだろッ!あったとしても誰が作ったか分かんねぇ食いもんなんぞ、食いたかねぇわッ!」

「ごめん、聞いた俺が馬鹿だった…緑谷は?」

「えぇっ、僕?!」

突然振られたせいで声が裏がえる。
過去すごしていたバレンタインデーを振り返っては、自分にとって一番印象に残っている思い出を恥ずかしげに声に出した。

「僕はその…クラスの女子とかには貰ったことないけど…昔お母さんがくれたオールマイトの形のチョコが1番嬉しかったかな!」

「はい、論外。次」

「ええぇぇっ?!」

せっかく打ち明けたのに、上鳴に呆れた表情で早々に却下される。
そしてほかのクラスのメンバーにも同じような質問をしていき、納得のいく答えがあまりなかったのか、全員回ったところで上鳴がようやくまとめに入った。

「今年こそ、俺はクラスの女子からチョコを貰う!!」

「「「オォーッッ!」」」

謎のテンションになりつつも男子たちの団結力が増していく中、隣にいる轟は未だ何かを考えている様子なのに気づき、彼に尋ねてみた。

「どうしたの?轟くん。」

「いや…確かに零が誰かにチョコをあげるとしたら、誰にあげるんだろうな、って思ってな…」

包み隠さず素直に言える彼に、思わず感心を抱きつつ、確かに彼女がもし誰かにあげるとしたら……と同じのとを疑問に抱いた。

バレンタインデーは元々、好意を寄せている相手にチョコと共に自分の気持ちを打ち明けるイベントだったはずだ。
いまとなってはお世話になった人にも敬意の気持ちを称して渡す人も多くなったが、彼女の場合はどうなんだろう、と思う。

というより、今まで人との接触を避けていたうえに言い方は悪いが山に引きこもっていた零が、そもそもそのバレンタインデーという日がどういうものなのか知っていることすら怪しい気がした。

それ故に今まで見た事のないほど、彼女自身は人の好意の気持ちに鈍感だ。
読心という相手の想いを悟りやすい個性を持ってしても、どうやらあの鈍さは凌げないらしい。
ただもし、今の風習のようにお世話になっている人に渡すとすれば、まず間違いなく相澤には渡すだろうが、轟はどうなのだろう。

純粋に零に特別な感情を抱く彼の心境を悟りつつも、密かに二人の進展を切に願うのだった。


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