宣戦布告
今日は、幼馴染の初めて見る光景をよく目の当たりにする日だ…。
緑谷出久は頭の中では呑気にそんな事を考えつつ、今起きた現状に唖然としていた。
クラスの皆で夢中になっていたホラー映画の一番盛り上がるシーンで、何故か零が隣にいた爆豪にしがみつくように抱きつき、目をぎゅっと瞑っているのだ。
その当事者である幼馴染…爆豪は、零に抱きつかれた事が余程衝撃だったのか、顔を真っ赤にさせ、身体は凍っているかのように硬直している。
今までなんやかんやずっと彼と人生を歩んできたが、あの暴言多発で怖いと恐れられた爆豪勝己に、異性が抱きつく瞬間と、それに対し免疫がないのか固まっている彼の新鮮な反応は、いくら頑張って過去を遡ってもこれが初めてである。
クラスメイト全員の視線がそちらに集中し、彼の隣にいた轟は、もはや言葉にもならない様子だった。
「ばっ…、離れろ、バカッ!!」
『むり、やだ!!』
「ちょっ……爆豪、何やってんだ。零から離れろ。」
「テメェこそどこに目ぇつけてやがる、半分野郎ッ!くっついてんのは俺じゃねぇ!こいつだろーがっ!」
「零、怖ぇんなら俺んとこに来い。」
「おい轟、論点ズレてるぞ…つーか願望駄々洩れだぞ。」
「だぁぁーーッ!!いーから離れろっ!んでそんなにビビってんだテメェはっっ!」
爆豪が慌てて引き離そうとするも、零のしがみつく力は相当強いらしく、ピクリともしない。
轟は離れようとしない彼女の様子を見て愕然とし、周囲の皆はコントのような光景に、思わず目を細める。
そんな中、この状況を少しでも和らげようと、未だ目を閉じている彼女に恐る恐る尋ねてみた。
「零さん…もしかして、ホラー苦手だった?」
名前を呼ばれてハッとした彼女は、ようやく今の現状に気づいたのか、至近距離にいる爆豪を見上げては慌てて離れてそれに答えた。
『ちっ、違う違う!!ただその、ちょっとびっくりして!!私映画とかあまり見たことないから…咄嗟にかっちゃんにしがみついちゃっただけ!!ほら、なんかかっちゃんなら何にでも勝てそうじゃん?いろんな意味で。』
「確かに…」
「おい、いろんな意味ってなんだよ。」
あははっ、と笑って誤魔化す彼女に、皆はほっと安堵の息を零しては再び映画に集中し始めた。
この時、映画を見て盛り上がる皆の声に紛れて静かに自室へと戻っていく零の背中を見ては、何処と無くいつもよりも丸まった弱々しい様子に、首を傾げたのだった。