宣戦布告


爆豪勝己は、突然胸の中に何かが勢いよく飛び込んできてた衝撃を肌で感じては、瞳を潤ませて泣きつく零の姿に、思わず息を飲んだ。

「なっ……」

『かっちゃん……怖いっ!!お願い!そばにいてっ!』

酷く動揺した様子で、ぎゅっと服を掴む指は力を増す。
いつもの強気な様子とはまた真逆で、華奢で震えた声を上げる彼女の様子は酷く新鮮でかつ、心臓の鼓動を最速にさせるには十分の効果だった。

「落ち着けって。おい、」

『私、一人じゃ耐えられない……かっちゃん、朝まで一緒にいて!!お願いッッ!!』

世の中には、“ギャップ”という表現がある。
今まさに彼女が最大級のそれを魅せていることだろう。
元々整った容姿なのは理解していたが、それに増してくしゃりと崩れた顔に、上目遣いでそう頼み込む彼女は、正直いって男心を掻き乱す効果は抜群だ。

なにかに脅えている様子ではあるが、そんなことはどうだっていい。
四の五の考えるよりも先に、小刻みに震える身体をそっと抱きしめては、耳元で囁くように優しい声で応えた。

「……わかったよ。んな泣くな。俺が傍にいて守ってやるから。」

『ありがとう……かっちゃん、大好き……』


ーーー

早朝。
小鳥の囀りの声が窓の外から聞こえてきて、はっと目を覚ましては、勢いよく身体を起こした。

「………………あ?」

いつもは疲れて深い眠りにつくことが多く、夢の内容など覚えている事など滅多にないはずが、今日の夢だけは嫌という程鮮明に覚えている。

どうやら昨晩、零の弱点がないかだの、あの隙のない強気な性格を一泡吹かせたい、などと考えていたのが原因のようだ。

ぽかんと口を開けたまま、もう一度脳内で夢の中の出来事を思い出した。
まるで自分とは思えぬほどの、優しい声と異性として彼女を包み込むような逞しい腕。
守ってやりたいという衝動に駆り立てられる心。

しまいにはキザなセリフを吐いた挙句、零が返した言葉が、本来ならば想像も出来ぬ心のこもった好意の言葉。

夢の中なら何をしても自由だとよく言うが、もはやそんなレベルではない。

「……っ、はぁ?!…んなわけねぇだろーがっ!!バカかッ!!!」

思わずそんな独り言を大声で叫んでは、どうしよもない現状に頭を強くかきむしっては、自分に呆れて支度をするために動き始めるのであった。



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