轟家との休日


零は斜め前から送られてくる轟の鋭い視線に、今日早起きしたことを後悔しつつあった。

今までにないほどの不機嫌さだというのはわかる。
大方エンデヴァーと内密に会っているようにもとれるこの状況に、納得がいかないのだろう。
かといって、エンデヴァーとは彼と知り合うよりも前から接触があって、自分の中で轟とエンデヴァーが親子だのと認識する気が一切ないので、彼にいちいち断りを入れて会うつもりもない。

それでも、黙って出てきたことに関しては申し訳なかったと思う。
ただそれにだって、言い訳くらいはある。

「…零がここにいるのは、俺が今日たまたま時間があって呼んだからだ。」

「…俺は今零に聞いてんだよ。口挟むんじゃねぇ。」

「そもそも零は俺の客人だ。むしろお前が口を挟むような問題じゃない。」

「…っ、んだと?!」

『えぇぇっ!?落ち着いて、落ち着いて!目の前で親子喧嘩なんてやめてください!!っていうか、巻き込まないで下さいよ!!』

ひとまず慌てて二人の間に入り、どうどう…と宥めるも互いの威嚇は収まらない。
とにかくこの状況を何とかしなければ…と轟の方に体を向けた。

『あのね、エンデヴァーが言ったのは本当。朝たまたま目が覚めた時に、ちょうど連絡があって。以前一度ゆっくりお茶しようって話もあったし、私がここまで来たの。…って言っても、本当に焦凍君が来るほんの少し前に到着したばっかりなんだけどね。』

「なんで言わなかったんだよ…」

『ごめん。だって別に、私は焦凍くんを“エンデヴァーの息子”としてみているわけではないし…朝早かったし、まさか君も帰省する予定だったとは思ってなくて。』

素直にそう答えると、彼はようやくクールダウンして視線を落とした。
ようやく事の次第に理解してもらえたことにほっと胸をなでおろすと、今度はエンデヴァーが驚いた様子で独り言のように零した。

「零の言うことは素直に受け止めるようだな…そんなにこの娘が母に似ているか?」

「違ぇ。てめぇと一緒にすんな。」

『…』

ダメだ。この二人はどうあってもなれ合うつもりはないらしい。
まぁ轟から聞いている事情もあって、二人の仲がそう簡単に緩和するものとは思えないが、どうやら自分は彼の母に余程似ているらしい。

『それで焦凍くんは、今日はどうしたの?お母さんのお見舞い??』

「あぁ…そのつもりできたんだけどな。」

「フン。帰省するなりアイツのところに通ってるなど、よせと言っているだろう。今のお前にそんな暇は…」

『エンデヴァー。これ以上話をややこしくするのやめてください。』

彼の言葉を最後まで言わせる前に被せてくぎを刺すと、彼はぐっと押し黙った。
先ほどのエンデヴァーと同じように、今度は轟がその様子を見て驚いた表情を浮かべる。
そして彼は、再びこちらを見つめてはハッとして明るい表情でこう提案を持ち掛けてきた。

「そうだ。零も一緒に行こう。母さんのお見舞い。」

『え?私?なんで?』

「前に少し零の話をしたことがあって…会いたいって言ってたんだ。」

「今日は俺が話があると呼んだと言っただろう。お前も子供の我がままに振り回せることはない。」

「うるせぇな。そもそも、あんたと話させるようなことなんて何もねぇよ。ほら、行くぞ零。」

『えっ?!あ、ちょっ…!!』

再び火花でも散っているかのような鋭い目線のぶつかり合いに気を取られていると、気づけば轟に手を引かれ、部屋の外へと連れていかれる。

エンデヴァーはその場に座ったまま、大きくため息をついては手のひらをこちらにすっと向けた。

なるほど…諦めて“いってこい”っていう意味か。
ひとまず彼に後でまた戻ってくることを伝え、半ば強引に手を引っ張る轟の方へと意識を戻し、隣に並ぶように歩いた。

『…ねぇ、私本当に行っても大丈夫?せっかくお母さんと会えるのに、邪魔じゃないの?』

「邪魔なわけねぇだろ。それとも、零は母さんと会うの嫌か?」

『いや、嫌とかじゃないけど…』

「じゃあ、決まりだな。」

彼はどこか嬉しそうな表情を浮かべながらも、手を引いて玄関まで誘導してくれた。
そして今度は、先ほど顔合わせした彼の兄姉達が驚きの声を上げて、こちらに駆け寄ってきた。

「あ、あれ?!父さんとのお話、もう終わったんですか?」

『あーーいや、それが…』

「いやいや、あんな奴と話すことなんてねぇ。それより、どこ行くんすか?!」

『……』

夏雄の発言に、どうやらエンデヴァーを受け入れられないのは、焦凍だけではないらしい、と理解した。
そんな複雑な心境を余所に、焦凍が二人に口を開いた。

「これから零と一緒に母さんのとこ行ってくる。」

「じゃあ、私車だすわ!いいかな、焦凍。」

「…あ、あぁ」

「俺も行っていいか?!焦凍!」

「いいけど…みんなで行くのかよ。」

少し複雑そうな表情を浮かべながらも、彼は二人の喜んだ顔を見て小さく笑った。
彼なりに、久しぶりに会った兄姉と出かけるのは何だかんだ嬉しいのかもしれない。
やはりこの場に居合わせるのは気が引ける、ともう一度断りを入れたみた。

『ねぇ、やっぱり私エンデヴァーと一緒にいるよ。せっかく久しぶりに家族に会えたんだし、水入らずで行った方がきっとお母さんも…』

「…何言ってんだ?2人は零がいるから行きたがってるようなもんだぞ。」

『え?私?いや、でも……』

「「行きましょう!!」」

支度を終えた冬美と夏雄がやってきては、活気ある声を上げ、思わず身体を仰け反らす。

ギラギラと2人の目からはとても断れる様子もなく、結局彼らについて病院に向かうことになったのだった。


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