“なかなおり”の仕方


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「本当に大丈夫か?」

『全然へっちゃらですよ。普通に生活する分には支障ないです。まぁしばらくは個性使えそうにはないですけど。』

そう答える彼女に安堵する反面、末恐ろしい体力だと改めて実感させられる。

実際あの結界を発動させている間隣にいたが、それがどれだけ凄まじい威力だという事は十分に伝わってきた。
他人に伝わる程の強い個性という事は、莫大な威力を持っているケースが殆どだが、駆使すれば体へかかる負担が大きい。
だからこそ、彼女は余命を早めてしまっているのだろう。

帰りのバスの中で隣に座る彼女の今後を不安に思いながらもため息を零すと、前の席に座っている緑谷がひょっこり顔を出して零に尋ねた。

「でも零さん、あの時よく敵が案外近くにいるってわかりましたね。もしかして最初から敵の位置に気づいていたんですか?」

彼女の力を目の当たりにした緑谷は、目を輝かせながらじっと零を見つめる。
零は苦笑いを浮かべながら、うーん…と考えてそれに答えた。

『正直言うと、詳細位置までは気づいていなかったよ。でも敵の発言から…私の事を見た事ないって言ったり、私が生徒とは違うっていう事まではっきり理解していた。それって、相手の容姿をしっかり確認できる位置にいるって教えてるようなもんでしょう。』

「な、なるほど…」

「じゃあ、何であんな賭けに出たんスか?もしアイツの方が吸収能力が高かったらマジでやばかったっすよ!?」

続いて上鳴が緑谷と同じように覗き込んで会話に入り込む。
しかし零は、あぁ。と小さく笑みを浮かべては、再び口を開いた。

『あんなザコ敵に、私の長年かけて抑えてきたこの個性が吸収しきれるわけないんだよ。そもそもいくらヒーローの卵とはいえ、まだ高校生の君たちと引率2人の私たちを相手にこそこそ隠れているような相手だよ?強いはずないよ。』

いつもより口の悪い様子にか、それとも彼女が一応いろいろ考えたうえで行動をとっていた事に驚いているのか、緑谷達は開いた口が塞がらなかった。

「まぁ結果が良かったものの、お前もあんまり率先して個性を使うのはやめろ。いつぶっ倒れるか分からんぞ。」

『もー、また過保護ですか?!そこまで馬鹿じゃあありませんよ!だいたい結果よければすべてよし!じゃないですか。』

「よくない。考えてもみろ。お前がもしあの時個性を使いすぎて反動を受けたとしたら、残された俺やそれを目の前で見る生徒達はどうする?お前はいつも、他人を守ろうとしんばかりに自己犠牲が強すぎだ。」

『…今回はちゃんと計算済みでしたよ。だいたいヒーローたるもの、自分より他人を守るために動くのが基本じゃないですか。』

「今回は、な。その基本がお前はいきすぎてるんだよ。もう少しくらい自分を労わるべきだ。」

『もう、上げ足取らないください!意地悪!』

「…子供か。」

雄英高校に戻るまでの数分間、零とのそんな大人げないやりとりが続いた。
そして到着する頃には、お互いが顔を合わせないよう意識しつつも、同じように歩き、同じ場所へ向かうしかなかったのであった。


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