“なかなおり”の仕方
結局職員室に行くのはどうにも気が引け、ひとまず校長とオールマイトに事情を説明し、いつものように授業は行うという意志を伝え、校長室を後にした。
「…いやぁ、相澤くん…。なんと言ったらいいか……」
「いえ、もう何も言わないでください。自分の状況くらい、十二分に理解してますから……」
オールマイトは一緒に校長室を出ると、複雑そうな顔をしてそう零した。
彼が言いたいのは何となく分かる。
隣で未だに事の重大さを理解していない、けろっとしている零と、事の重大さを過剰に受け止めている自分の差が、余りにも大きい。
そしてそれは恐らく、相手を異性だと認識しているか否かの差とも比例する。
しかし今は、彼女の呑気さに腹を立てている場合でもない。
時間は有限だ。
とりあえず日常が始まってしまった以上、教師という職務を怠るわけには行かないだろう。
「正直言って、あなたにこんな事をお願いするのもなんですが…極力事を大きくはしたくありません。そのため、職員室等にあまり顔を出したくないので、色々とご協力頂けませんか?」
「構わないよ。私に出来る限りのことはしよう。」
「助かります……」
「でも、今日の午後の校外授業はどうするんだい?確か君が受け持つ授業だろう?」
「……っ、」
彼に言われてようやく思い出しては、サッと血の気が引いていく感覚になった。
そうだ。今日は午後から、学校の所有している森で基礎体力をつける授業がある。
しかしこの状況では、口で指示は出せるものの万が一の非常事態が起きた場合、対処するのは難しい。
延期するべきかと悩んでいると、彼女がようやく話に入ってきた。
『別に予定通りの授業をやればいいんじゃないですか?』
「えぇっ?!零くん、いくらなんでも……」
「簡単に言うな。この状況じゃ、もし何かあった時…」
『大丈夫ですよ。』
被せるようにそう言って、真っ直ぐ金色の目を向けてくる。
昔からこの目には滅法弱い。
ぐっと引き下がると、彼女はもう一度念を押すように小さく言った。
『大丈夫…なるようになりますから。』
何を根拠に……と思いつつも、その頼もしい一言にどこか安堵した気がした。