“なかなおり”の仕方


担任を受け持つ1-Aのクラスメイト達は、自分が突然寮に訪れた事に何事かと玄関に集まっては、案の定二人のおかれた状況に目を点にして硬直した。

「あ…相澤先生と零さん…一体どうしたんですか、それ。」

最初にそう声を零したのは、この手錠を壊せる可能性がある貴重な逸材の一人、緑谷だった。
二人に尋ねてはいるものの、目線は零と繋がった腕の方向へと向いている。
そして次に質問を投げたのは、麗日・切島だった。

「えぇっ!?どういう展開ですか、それ。」

「…零さん!探してたんスよ!?朝起きたらもうどこにも姿がないし、相澤先生から安静にするように監視を任された身なんスから、せめて一言言ってくださいよ!」

『ご、ごめん…。むしろその監視取締役に捕まっちゃったんだけどね。あはは。』

「あはは、じゃない。お前らの目を盗んで早朝に公園でトレーニングしてるところを、俺がたまたま見かけたんだ。」

「トレーニング?!何やってるんですか零さん!まだ本当なら入院していないといけないほど絶対安静の重傷者なんですよ?!」

『大げさだなぁ。』

「いやいやいや!大げさじゃなくて!って今の問題はそこじゃないですよね…。」

「それで?どうしたらそんな事態になるんですか。」

眠気眼でやってきた轟が、なぜか機嫌の悪そうな声で話に入ってくる。

不思議そうに集まる彼らを見て一つ大きく息を零し、ひとまず共用スペースに移動して今までの経緯をできるだけ短く簡潔に説明した。

「−−で、だ。俺の能力では何ともならないうえに、零は力任せに刀で斬ろうとしている次第で、何とか他にこれを壊す方法を探している。そこでお前らに頼みたいんだが、何とかこれを学校が始まる前に外してくれないか。」

「外すって…ようは破壊してもいいんですよね?でも正直お二人の腕がそんなに至近距離にあると、攻撃的な個性を使うのは正直怖いですね。となると、やっぱり八百万さんの個性で何か道具を創造してもらうとか…」

彼らも案外早く、自分たちと同じ意見へとたどり着いた。
控えめにこちらをじっと眺めていた八百万は、名指しされたタイミングでハッとし前へとやってきた。

「鉄の鎖を切るとなると、クリッパー的な道具でよろしいんでしょうか…創造はできますが、作業自体は力のある男子にお願いした方がいいかと思います。」

手錠をまじまじと見ては、少し時間をかけて体から大きめのクリッパーを作り出す。
そしてそれを誰に渡そうか悩んでいた矢先、爆豪が身を乗り出してきた。

「俺にやらせろっ!俺に!」

彼の表情はいつもに増して、何か悪だくみを思考しているような薄気味悪い笑みを浮かべていた。
隣に座る零がひぃっと青ざめた顔をして、慌てて守るように問題の手を背中へと隠した。

『うわ待って!なんか悪意があるようにしか見えない!だめだめ、爆豪くんはダメ!』

「はぁ?!んでだよ!俺にやらせろクソ女ッ!」

「俺も零の意見に賛成だ。お前にこの役目を任せるのは気が引ける。」

「ぐっ…」

「轟、お前ならどうだ。」

「…やってみます。」

普段冷静に物事を判断する彼の事だ。きっとこれもベストな対応をしてくれるだろう、と思って安堵の息を漏らそうとした瞬間、既にクリッパーを手にとり作業に取り掛かり始めた。

「ちょっ…待て轟!」

「…なんすか。」

なんすか。じゃないだろう。
なんで切断する位置が明らかに自分寄りなんだ、と突っ込みたくなりつつも一度言葉を飲み込んだ。無意識か故意かは分からないが、零の腕を傷つけまいと今の行動をとろうとした点、どことなく向ける優しい目、それに加えて先ほどから少しだけ不機嫌な様子は、轟の心境を悟るには十分なヒントだった。

なるほど…こいつ、零をえらく気に入ってるわけか。

そう確信めいては、私情を挟む彼に任せたところで自分の腕が危うい。

結局彼も断り、その後パワー型の佐藤、緑谷達の個性を駆使しつつも試してみたが、かけられた手錠は外れるどころかビクリともしなかった。

学校が始まる前から既に疲れを感じてきたところで、ずっと大人しくしていた零が『あっ!』と突然大きな声を上げた。

「なんだ、こんな大事な時に。」

『時間、マズいですよ。そろそろ支度して学校行かないと全員遅刻です。』

呑気な口調で話す彼女に苛立ちを覚えながらも全員が時計を見ると、既にホームルームの時間まで残り30分を切っていた。

「仕方ない、ひとまずこのまま学校に行く。零、お前の部屋によるから、とりあえずそのジャージ姿なんとかしろ。」

『大丈夫ですよ。この下にコスチューム着てますもん。』

「ばっ……!今脱ぐな!場所をわきまえろ!!」

目の前で服を脱ごうとする彼女に狼狽える自分と、手のひらで目を覆う男子生徒たち。

零はお約束のポカン、と口を開けたまま不思議そうな顔をしていたが、突っ込む気力も最早ないのでスルーした。

「とりあえず、授業は通常通り行う。この件に関しては、また放課後だ。」

そう生徒たちに断言し、零を半ば引きずるようにして一足先に寮を発ったのだった。




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