平穏な休日


日曜日。
今日は授業もないし、予定もない。
相澤消太は目を覚まして早々、久々にゆっくり出来る休日に、ほっと胸をなでおろした。

時計を見ると、針は午前9時を差している。
この時間であれば、さすがの朝が弱い零も起きているかもしれない。
久々に彼女を誘ってどこか出かけてみるか。

それとも、この積み重なった疲労と睡眠不足をリセットするために、早くも二度寝の選択を取るか。

「……」

しばらく悩んでは、まだ布団が名残惜しい感覚に素直に従い、再び瞼を閉じた。

しかしそんな安らかな一時は、突然の来訪者によって儚くも散るのである。


ふと、遠くからドタドタと荒々しい足音が耳についた。
それは徐々に近づいてきて、部屋のドアの前でピタリと止まったかと思えば、ノックなしに勢いよくドアが開いたのだ。

「He----y!Good morning!!イレイザー、起きてるかぁ?!」

「……」

訪問者が誰であるかは、最早目で見なくてもわかる。
この朝から異様なテンション、話し方。そして何年経っても慣れない絡み方をする奴は、知っている限り一人だけだ。

「おいイレイザー、起きてるんだろ?!返事くらいしろよォッ!」

「……朝からうるせぇな。休日なんだからそっとしとけよ。っつーか何の用だ、マイク。」

耳元で騒がれるのも癪なので、ひとまず嫌々身体を起こして彼、プレゼントマイクに目を向ける。

こちらはまだ寝起きで髪はボサボサ、無精髭もそのままだと言うのに、奴は既に支度済みの完璧な格好をしている。
何だか嫌な予感がしつつも、とりあえず要件だけでも聞いてやろうと尋ねれば、顔をグッと近づけて相変わらず高いテンションでこう言ってきた。

「今から俺とshopping行こうぜィッ!」

「嫌だ。」

「shockーーッ!!即答かよ!考える間もなしかよ!冷てぇなぁイレイザーッ!おめェそんな薄情な奴だったのか?!」

「…朝から大声で騒ぐな。っていうか、なんで休日までお前と出かけにゃならんのだ。買い物くらい一人で行け。子供かよ。」

しっし、と手で払うようにあしらうと、彼はぐすんと不貞腐れ、くるりと踵を返して出口の方へと歩み始める。

珍しくいつもより粘らずに諦めた彼に、ほっと小さく息を吐き出す。
そもそもやっと訪れた休日を、わざわざこいつと出かけるくらいなら、零と出かけた方が断然いい。

ひとまず布団にもう一度入って、邪魔された二度寝を再度試みようとしたその瞬間。

未だ部屋の扉の前にいる奴が、思わぬ発言を零したのだ。

「ちぇっ……じゃあお前には頼まねぇ。こうなったら零ちゃんに付き合ってもらおーっと。」

「…………、は?!」

一瞬聞き間違えではないかと思ったが、数秒遅れてようやく反応する。
慌てて後方にいる彼の方へ身体を振り向かせると、既にスマホを耳に当て、この場で通話し始めたのだ。

「あ、もしもし?零ちゃん?グッモーニンッ!あのさぁ、今日って用事ある?…あ、ない?、じゃあさ、じゃあさ!俺とshoppingに行かねぇ?」

マイクの話す内容と、微かに受話器越しに聞こえる零の声に、次第に焦りを感じ始めた。

ーーおいおい、冗談じゃない。
今日零と出かけようかと密かに考えていたのに、早くも奴にとられてしまうではないか。
それどころか彼には今までの過去に、零へ抱く密かな想いを無意識に話してしまったこともある。
マイクの性分上、決して口が堅い方ではないし、ましてや二人で出かけられれば、彼女にやたら変なことを吹き込まれる気しかしない。

「マジで?!Thank you!んじゃ、後で職員寮の前に来てくれよォ。車は俺が出すぜぃ!」

考えているうちに、いつの間にか話が進んでいる事にはっと我に返り、気づけば自分でも驚くほどの大きな声を出していた。

「お、おいちょっと待てッ!!!」

そしてこの発言をした矢先、目の前にいたマイクの振り返った顔が、ニタリと意地の悪い笑みを浮かべているのを目の当たりにするのだった。



1/7

prev | next
←list