あなたの視点
児童養護施設に来て午後を回る頃。
最初はじゃじゃ馬な子供たちも、気づけばすっかり三人のヒーローに懐き、和やかな空気が流れつつあった。
ひとまず昼休憩をとるため、三人は近くのファミレスまでやってきた。
零は未だ慣れない外食にソワソワしつつ、二人の話す耳を傾けた。
「ったくよぉ、今のガキはすげぇな。零チャンを見るあの目…もうあの歳で思春期ってかぁ?」
「善悪の判断が難しいから、子供なら何されても許されると思ってるんだろ。零も気を許すなよ。」
『えー…でも子供相手ですし…』
「“えー”じゃない。何度も言ってるが無防備すぎるんだよ、お前は。」
どうあっても彼の中で男という生き物に年齢は関係ないらしい。
強情な相澤に肩を竦めるも、まるで助け舟かのようにマイクが話を切り替えた。
「…でも零チャンって、意外に子供には警戒心なく面倒みもいいんだな。俺はもっと、ガチガチになると思ったぜ。」
「確かに…俺も子供相手にあんな自然と接する零には驚かされたな。」
二人に褒められたような気がして、少し照れくさくなって目線を下げた。
『なんとなく、ですが…大人相手ですと、服部家の者たちと接していた頃の事を思い出してしまいますし、いろんな経験をへて考え方や知恵もそれなりにあるので、どうしても最初は警戒してしまうんです。
その点子供は、ひねくれていようと真っ直ぐで純粋な心があります。自分の目で見たものが真実…そう考えてくれれば、私も真っ向から接すればいいんじゃないかな、と思って。』
「……零チャン。」
「…なるほどな。まぁ、どの道子供は大人の気配や表情に敏感だ。お前が下手に取り繕ったところで、バレるだけだ。そういう面では、お前作り笑顔とか下手だし。」
『ははっ、消太さん。それ言われるとぐうの音も出ないんですけど。』
相澤の言葉に苦笑いを浮かべると、向かいに座るマイクが困ったような顔をしているのに気づいた。
『ご、ごめんなさい!マイクさん、まだ私の家の事情も詳しくご存知なかったですよね?!なのに昼からこんな重苦しい話を小出ししちゃって、すみません!』
「え?!いや違う違う!そうじゃねぇよッ!」
『え、違うんですか?』
きょとん、と首を傾げる零にマイクは口を渋らせた。
「いやぁ、そうじゃなくてさァ。零チャンって、ほんっと大人だよな。その歳でそんな風に考えられるって、いろいろ経験してきたとはいえすげぇよ。俺なら間違いなくグレるね。っつーか心が折れる。」
「……まぁ、零の過去は少し複雑だからな。俺たちみたいな一般的な家庭で育ってきた側からすれば、お前はよくやってると思うよ。…多少グレてた時期はあったけどな。」
『…消太さんホント一言多いんですけど。』
「零ちゃんがグレてた時期かぁ…でも、昔も可愛かったんだろうなァ!なぁイレイザー、零チャンが幼い頃はどんなだったんだ?!」
マイクの質問に、相澤は手にしたグラスを口前で留めた。
少し考えては大きくため息を零し、渋々口を開く。
「…さぁな。どんなだったかな。」
そう答えた彼の意地の悪い笑みを見たマイクは、本当は鮮明に覚えているくせに、敢えて零との思い出を独占している心境が容易に読み取れた。
「チッ、オメェやっぱめんどくせぇ。彼氏にしたくないNo.1候補だぜ。」
「俺は別にお前に高評価されたくない。」
『まぁまぁ、いちいち言い合いしないで下さいよ。』
早くも始まる二人の火花を散らす睨み合いに、零は苦笑いを浮かべた。
ーーでも。
『でも…マイクさんの言うように、過去が複雑な私が道を大きく踏み外すこともなく、こうして今皆さんと一緒にヒーローとして存在できるのは……他でもなく、消太さんが居てくれたからですよ。』
ふわり、と笑う零の顔に、マイクと相澤は言葉を失う。
相澤はその言葉を何度も頭の中で繰り返しては、ボッと頬に火がつくような熱を感じ、目を逸らした。
しかし、零は彼が照れている様子に気づくことは無い。
マイクは頬杖をついてそんな二人のやり取りを見つめながら、誰にも聞こえないほど小さな声でこう呟いた。
「ごちそうさん。」