あなたの視点


「で、なんでこうなるんだ…」

児童養護施設へ向かう当日のタクシーの中。零の隣に座る相澤は、不服そうな声でそう小さく呟いた。

「Yeahーーー!!そう嫌そうな顔すんなよ、イレイザー!楽しく行こうゼッ!」

『あはは、なんか馴染みのあるメンバーになりましたね。』

今や密かに心の中で“凸凹コンビ”と名称を付けたマイクと相澤見て、思わず苦笑いを浮かべた。
もちろん名前の由来は他でもなく、あからさまに違う2人のこのテンションから取ってつけたものだ。

「っつーかよォ、なんで零チャンが真ん中じゃねぇんだ?普通このメンバーなら、俺、零チャン、イレイザーだろォ?!」

「…うるさい、耳元でそう大きい声出すな。別にどうでもいいだろ席位置なんて。」

「よくねぇよ!!せっかく校外へお出かけだっつーのに、なんで男のオメェと仲良くくっついて道中過ごさなきゃいけねぇんだよ。WHY?!どうせなら零チャンの隣がいい!」

「うるせぇって言ってんだろ。黙れ。零は元々乗り物に弱いんだ。少しでも外の景色が見える方がいい。」

「んじゃ俺が真ん中で良くね?!そしたら零チャンと隣だし、零チャンも窓側の席!一石二鳥じゃん!」

「一石二鳥じゃない。そういう時だけまともな日本語使うな。」

早くも険悪ムードになりつつある二人に板挟み状態となり、何故か罪悪感を感じる。
何とかこの空気を変えたくて、思い切って提案してみる。

『あ、あの…なんなら私、席代わりましょうか?』

「ダメだ。」 「いいのォ?!」

返ってくる反応はもちろん真逆で、またしても睨み合う2人に大きくため息を吐き出した。

二人が学生時代からこんな感じだと知ってはいるものの、やはり間に入るとなると本当に困惑する。
この場がもしミッドナイト、もしくはオールマイトだったらな…と心の中で弱音を吐いた。

ただ実際、残りの1人がマイクというのには適任だと思った。
オールマイトは既に引退しているし、彼の過去を知る限りでは元々“才能マン”に近い存在だ。
無個性だった彼が、あの強力なワンフォーオールの継承者として選ばれて、ものの僅かで自分のものとして個性を扱えた結果が何よりもの証拠。
加えて日々雄英高校で生徒たちを見る目線、アドバイスの仕方などを聞いていれば、まだ言葉で説明したり指導するのが苦手ととってもいいだろう。
そんな彼が個性の事もまだよく分からない子供たちにより的確なアドバイスするのは、彼自身にとってもなかなかの難問だといえる。
ちなみにミッドナイトは、純粋な子供と接する事ができたとしても、元より18禁とも言われるヒーロー。露出の高いコスチューム等も踏まえて、さすがに気が引けると辞退した。

まぁ最も、最終的にマイクに決まったのは、「面白そうだから俺行きたい!」という彼のたった一言だったわけだが。

窓の外に目をやり、当時の話し合いの状況を頭の中で思い出しては、無意識のうちに乾いた笑みを浮かべた。

「……零?酔ったか?」

ふと隣に座る相澤に名を呼ばれ、ハッと我に返る。
彼の方に目線を向けると、少し不安げな様子を表していた。

『いえ、大丈夫ですよ。心配しすぎですって。』

「そうか、ならいいんだが。…にしても、お前が率先して行くって言った時には驚いたよ。最初あの話を持ち出された時、お前あまり気が進んでなかっただろ。」

『……え、』

思わぬ彼の発言に、咄嗟に盛れた声は情けないものだった。
そしてそれを耳にしたマイクは、酷く驚いた様子で勢いよく目を合わせた。

「えぇ、そうなの?!俺全然気づかなかった。」

しゅん、と肩をすくめる彼を見て首を振る。

『気づかなくて当然です。むしろ、気づいた消太さんの方がちょっと異常なくらい。』

クスクスと笑ってそう言えば、相澤はじとりと白い目で見つめた。

「異常ってなんだ。ほんと失礼だな、お前。」

『だってそうでしょう?たった一瞬見せた表情で私の心の中を悟るなんて…。逆に怖いですよ。普段から何でも悟られてそうで。』

今度は半ば茶化すように返すと、相澤はムスッとした顔で「何でも分かるくらいなら普段から苦労はしないんだがな。」と皮肉を零し、話を続けた。

「俺も最初はお前があの時言っていたように、未だに“読心”の個性を扱えていない零が選ばれるのは、依頼内容から考えると適任ではないと思ったんだ。でもお前は行くと決めた。それはやはり、校長の言葉がお前に響いたからか?」

不器用ではあるが、心配そうに見つめる優しい瞳。
長年聞き続けてきた彼の声に、大切に想ってくれている気持ちが伝わってくる。

『…勿論それもあります。でもそれ以上に、私の経験してきた事が…辛かった想いが誰かの役に立てるのなら、私は力になりたい。分かってあげられる部分があるのなら、理解してあげたい。そう思ったんです。』

過去の自分を思い出し、情けなく笑う。
しかし彼はその意見に口を出すことも無く、穏やかな笑みを浮かべた。

「まぁ、何かあったら俺がサポートする。お前は自分のやりたいように…思うようにやってみろ。」

『……はい。ありがとうございます、消太さん。』

いつも優しく背中を押してくれる彼に、つられて笑った。

「えぇーちょっとちょっとォ!急に勝手に二人の世界突入しないでもらえますぅ?!っつーか、なんだよイレイザー!オメェほんっっと零チャンにだけ、キモイくらいに優しいヤローだなッ!甘ッ!」

『ご、ごめんなさいマイクさん。そんなつもりじゃ…』

「仕方ないだろ、こいつとは昔からこーいう風なんだ。っていうか押すな、狭い。離れろ。」

「そうやってさり気なく独占してんじゃねーよ!知らねぇのか?イレイザー。嫉妬深い男は嫌われるぜ?」

「…そうやって小さいことにうるさい男も嫌われるぞ。」

「んだとコノヤローッ!」

『ちょ、喧嘩しないで下さい!って言うかなんでまた言い争いになってるんですか?!』

慌てて仲裁に入ろうとしても、彼らの言い合いはヒートアップしていく一方で全く相手にすらされていない。
というか、いつも二人の着火点が本当によく分からない。

しかしふと目線を逸らした先に、バックミラー越しに不安そうに後部座席を見つめる運転手の顔を目の当たりにしてしまった。
何だか恥ずかしくなり、いてもたってもいられなくなった零は二人に向けて怒涛の声を上げたのだった。

『~~~っ、二人ともうるさいッ!静かにしないと、このまま窓から外に放り投げて引き摺らせますよ?!』

「「……すみませんでした。」」

そんな残酷な一言で、目的地までは静かな道中を過ごしたのだった。


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