背中


ホークスは翼をエンデヴァーへと飛ばしたあと、少し離れて彼がこの闘いに幕を閉じる瞬間を見届けた。

エンデヴァーの最大で最強の火力は、まるで太陽のような凄まじい威力だった。

その攻撃を受けた脳無は焼け、エンデヴァーは力尽きて地へと急降下していく。
慌てて駆け寄り、倒れそうになる彼をなんとか間一髪で受け止めては、右手を掲げて勝利の証を民衆に見せつけたその大きな背中に、一言吐いた。

「オールマイトとポーズ同じじゃないですか。」

「腕が違うッ!…奴は左だ……!」

どうやらまだ、言葉を交わす程度の余力はあるらしい。
身体中はボロボロで、出血もかなり酷い彼の体を見つめては、この勝利はこの人にとってかなり大きな“一勝”になったことを悟った。

「まず、その怪我と出血をなんとかしないと……」

「俺はもう動けんぞ。それより零はどうした、一緒じゃないのか?」

「……えぇ。奴が分散した脳無を片っ端から処理しに行ってくれてます。」

「そうか…なら早く様子を見に…」

「ちょーっと待ってくれよ。いろいろ想定外なんだが……」

「「……?!」」

突然第三者の声を耳にし、ハッとして振り向いた二人の目線の先には、この状況で最も最悪とも言える登場人物……

「まぁとりあえず、初めましてかな?エンデヴァー。…お前がいるとは聞いてねぇ。」

「……!あのスナッチを殺害したそうだな。」

ゼェゼェと息をするエンデヴァーの警戒心が、より一層強まる。
しかし相手はそんな事に目もくれず、現れて早々戦闘態勢をとり、自己紹介とともに青い炎を周囲に放った。

「敵連合…荼毘。」

「……ッ、」

奴の悍ましい殺気に、全身が強張る感覚が走る。
羽ももう残りわずか。エンデヴァーはとてもじゃないが再戦できるほどの余力は残っていない。

ーーどうする、どうする!!

ホークスの鼓動が早まり、この危機的状況に更なる焦りを感じる。

「雑魚羽くらいしかありませんが、時間稼ぎくらいはーー」

「勘弁してくれよ。そこの脳無を取りに来ただけなんだ。俺が勝てるはずねぇだろ。満身創痍のトップ2相手によ。」

「……くっ、」

荼毘が手に炎を纏いながらこちらへと向かってくる。
どうやら口ほど素直に交戦を避けてくれる気は無いらしい。

そして奴は一気に距離を詰め、間合いに入ろうとしたその瞬間。

まるで自分とエンデヴァーを守るように、一つの小さな背中がどこからふわりと舞い降り、目の前に立ちはだかった。

「「「……?!」」」

「なっ、」

『…間に合ったみたいだな。』

藍色に染まった癖のある髪。顔は和柄の仮面で覆われて風貌を隠しているものの、ホークスにはすぐに分かった。
地を這うような凛とした、低い声。
相手を牽制するほどの凄まじい殺気と、威圧感を放つ存在感。

こんなオーラを出せるのは一人しかいない…。

こちらが驚いて動揺している間に、彼女は向かってくる奴に素早く刀を抜いた。

「くっ……!何者だ、」

荼毘は突然現れた第三者に動揺し、一瞬速度を弛める。
そしてその隙に、上空から新たな気配を感じたと同時に、荼毘と自分たちの間に凄まじい攻撃を放った。

「ニュース見て“跳んで”きたぜッ!おもしれぇ事になってんな、エンデヴァー、ホークスッ!」

聞き覚えのある声に、ハッと我に返った。
褐色の肌、口調とは裏腹に可愛らしい兎の耳としっぽが特徴の…No.5のミルコだ。

荼毘は慌てて更に距離をとり、後方へと引き下がる。
誰もがミルコに気を取られている間に、気づけば零の姿を見失った。

「…ッ、あいつは?!」

荼毘はこの場にいるどのナンバーズのヒーローよりも、零を恐れた。
ヒーローとは思えぬほどの凄まじい殺気と、あの気迫。
目を向けられただけで、一瞬自分の体が貫かれるような感覚になった。

「奴は一体……、」

『そのまま去れ。』

「ーー…っ、!」

背後から囁かれる声に、荼毘は再び凍り付くようにその場に立ち伏せた。

なんだ、コイツは……

気配すら感じなかった。
背後に立つその人物が、もはや声だけでは男か女かすら分からない。
和柄の仮面をつけたヒーローなんて、今まで見た事も聞いたことも無かった。
むしろ今まで見てきたヒーローとは違う感じだ。
いや、そもそもこいつはヒーローなのか?

荼毘は音を立てて息を飲む。
しかし頭の中でいろんな思考が駆け回る中、突然口の中から何かが湧き上がる感覚を覚えた。

ーーあぁ、時間切れだ。

「…また今度な、No.1ヒーローさんよ。また話せる機会があるだろう。その時まで…精々頑張れ、死ぬんじゃねぇぞ轟炎司ッ!!」

「……ッ!!」

「今話してけッ!」

荼毘が何らかの手で姿をくらます瞬間、ミルコが素早く蹴りをかます。
しかしその時には既に遅く、奴はその場からパタリと消えてしまった。

『……』

零は何も言わぬまま、鞘から出しかけた刀をしまう。
ホークスは辺りを見渡し、奴の気配が無い事を確認した。

「……とりあえずは、一件落着ですね。」

「……あぁ。それより零は…」

「零さんならあそこに…。」

ホークスがそう言って彼女の方を指さすと、その場に立っていた彼女の体がふらりと傾き、地面に倒れてしまう光景を目の当たりにした。

「「……っ、零!!」」

エンデヴァーとの声が重なる。
慌てて彼女の元へ駆け寄れば、酷く青ざめた顔色と呼吸が浅くなっている容態を確認した。

「しっかりしろッ!零ッ!」

零を抱き抱え、エンデヴァー達がいるということすら忘れて必死に彼女の名を呼ぶ。

しかし零が目を覚ますことは無く、焦りと緊張が募る中、早急にエンデヴァーと共に近くの病院へ搬送する手配をとった。

ホークスはすぐに病院へ同行できない事に密かに胸を痛めつつ、他のヒーローたちよりも一足先に現場から離れ、先程顔合わせしたばかりのーーー荼毘の元へと向かった。



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