背中
11月後半に差し掛かった頃。
「雄英で預かることになった。」
「近いうちにまた会えるどころか……!!」
相澤の突然のカミングアウトに、緑谷出久は驚くあまりにそう突っ込んだ。
なんでも壊理を雄英高校の教師寮の空き部屋で預かることになったらしい。
残酷なことに壊理は両親には捨てられ、唯一の身内である死穢八斎會の組長も、長くして未だ意識不明のままで、彼女の個性の発生源となる角も少しずつまた大きくなっているという。
今後は“壊理の強力な個性とどう向き合っていかなければいけないのか”という課題を模索するのと共に、検証すべきこともあるらしく、今後も様子を見ていこうという結果になったらしい。
「でも、相澤先生が大変そう…」
一緒に説明を受けた蛙吹がそう零すと、率先して通形が前に出た。
「そこは!!休学中でもあり、壊理ちゃんとも仲良しのこの俺がいるのさ!!忙しいだろうけど、みんなも顔出てよね。」
「「「もちろんです!!」」」
隣にいた切島や麗日達と声を重ねて、そう意気込んだ返事を返すと、彼は続けてこう言った。
「ま、それに俺だけじゃなくなんてったって雄英には師匠もいるからね!問題ないさ!ね、相澤先生!」
確かにそうだ。
壊理にとって今最も信頼し、最も近い存在として見ている零がここにはいる。
何より相澤の“抹消”の個性と同等の能力を持つ彼女は、壊理の個性が暴走した場合でも相性がよく、この上ない適任者だと思う。
しかしそんな話を振られた相澤は後頭部を掻きながら、「あー…」と歯切れの悪い返事をし、大きく肩で息を吐いた。
「あいつなら、今日からしばらく留守だ。」
「「「留守?!」」」
「珍しいですね、留守って…。なにか別の任務でも依頼が来たんですか?」
「ま、そうっちゃそうだが、違うっちゃ違うかもな。」
「もしかして、相澤先生も何も聞いてないんですか?」
麗日の質問に、相澤は一瞬にして怪訝そうな顔をうかべた。
「いや、どうやら隠密活動じゃないらしいからある程度話は聞いている。…まぁむしろ今回ばかりはある意味零が一番の被害者かもな。」
「「被害者?!」」
今明かした彼の話の内容だけでは、零が今どういう状況なのか全く検討もつかない。
モヤモヤとした空気が生徒達内で流れる中、彼は何かを思い出したのか小さく舌打ちをして、再び話し始めた。
「先日のビルボードチャートJPで見事No.1の座に着いたエンデヴァーに、半ば拉致されて遠征に行っているそうだ。」
「え、エンデヴァーに拉致?!っていうか、零さんやっぱすげぇな!あのエンデヴァーにも人脈あんのかよ!」
「そりゃ、なんたって俺の師匠だからね!!」
彼女に尊敬を抱く切島に、なぜか通形が得意げな顔をする。
しかし未だに不服そうな相澤は、誰にも聞こえない程小さな声で愚痴を零した。
「…ったく、なんで毎度毎度あの人は零を振り回すんだ。こっちの都合も考えずに大して用事も伝えずアイツを呼び出して、そのまま遠征に連れていくだなんて…言伝預かる俺の身にもなれってんだ。」
苛立っているせいか、いつもより口調が悪くなっている相澤に思わず苦笑いを浮かべた。
彼は零の事となると、露骨に感情を左右させる。
よほどエンデヴァーとのやりとりが気に入らなかったのだろうと心中を察しつつ、小さく肩を竦めたのだった。