ホークスは遠くから零と相澤のやり取りを聞き終え、ほっと安堵の息を零した。

実は昨晩零がようやく眠りについた後、密かに彼女の言う“消太さん”が誰なのかを模索していた。

話を聞く限りでは、ヒーローであることは間違いないし、年齢的にも彼女より上なのは分かる。

しかしプロヒーローともなると、本名よりもヒーロー名が夜に知れ渡り、逆に個人名なんて飾りのようなものと化してしまうせいで、消太なんて名前の人物を探し当てるのには、いささか情報が足りない。

そんな時、少し前にインターンで声をかけた雄英高校の生徒、常闇と当時話をしていたことを思い出した。


ーーー

インターンで常闇に声をかけたきっかけは、文化祭での闘いを生中継のテレビで見た時だった。
結果三位ではあるが、なかなかに動きも無駄がなく、判断力も長けている少年だ。
何より彼なら少しアドバイスしただけで、一段とまた個性が光るのではないかと、密かに胸を踊らせたものだ。

しかし実際に彼の動きをこの目で見て、その文化祭から少し期間が過ぎただけだというのに、以前とは見違えるようないい動きをしていた。

だから興味本位で尋ねてみたのだ。

「すごいねぇ、そのダークシャドウっていう個性。まぁ個性もすごいけど、何より君のその機敏な動き。文化祭の時とはえらい違いだな。一体誰を見本にそんな立ち回り方を覚えたんだ?」

単純な疑問のつもりだった。しかしなぜかその質問に、常闇は少し複雑な顔をしながら考え、時間をかけて答えた。

「申し訳ありません。俺の見本…というか、アドバイスを下さった方は、訳あってその名を口にする事はできないのですが…ただ、速くて強く、それでいて判断力に優れた偉大なヒーローであることは確かです。」

「……へぇ、そうなんだ。」

ーーー

その時は大して考えることもなかったが、今になってそれが誰であるのかはなんとなく予想が着く。
名を口にすることすらできない特殊なヒーローは、この世間ではごく少ない。
加えて、彼の持つ個性のダークシャドウが時折迂闊に零していた、“あのねーちゃんの言った通りだな!”なんて言葉を聞けば尚更だ。

思うに、今隣で疲れて眠った零が、どういうわけか雄英高校の生徒たちと関係性を持っているのではないだろうか。

そしてその環境下で、いかにも“消太”という名前そうな人物を思い浮かべれば…

「……イレイザーヘッド、か。」

大した面識も、どういう人物なのかさえよくは知らないが、存在自体は知っている。
さらに零から聞いた話を元に彼の性格を考えるならば、明日あたりに血眼になってこの子を探すだろう。

隣で静かに寝息を立てている零の顔を見ては口元に笑みを浮かべ、顔にかかった髪をそっと流してやっては、明日どう動くかの作戦を練った。


そして冒頭に至るわけだが、零とデートを満喫する一方で、実は密かに羽を飛ばして相澤の気配がないか確認していたのだ。

ようやく探し見つけた彼の目に届くよう、空を飛んで位置を特定し、あとは零が彼から逃げないように半ば強引に手渡せば、その先はなんとかしてくれるだろうという算段だった。

まぁ実際、思った以上に事は運んだし、零も自然に笑うようになった。
自分にしては上出来だ、と密かに得意げに笑みを浮かべては、手を繋いで遠ざかっていく二人の背中を見つめた。

「……それにしても、妬けるねぇ。」

今日今まで零といて、あの屈託のない笑顔をどれだけ引っ張りだそうとしても、決して見ることは出来なかったというのに。
イレイザーヘッドは、ただ隣にいるだけであんなにも零の女の魅力を引き出させる。

二人の仲を取り持ってやったというのに、少しだけ複雑な想いを抱いては、一人日が落ちた夜の空を飛んでホテルに戻ったのだった。




9/11

prev | next
←list