文化祭


文化祭を終えた日の夜。

1-Aの寮内では全員風呂を済ませた後、供用スペースにて今日撮影した写真などを見ながら、文化祭の話でもちきりだった。

「いやぁ、楽しかったねー文化祭!」

「成功してよかった!」

生徒たちが集ってそう話す中、遅れてやってきた零がひょっこり顔を出しては写真を見渡す。

『へぇ…これ今日の写真?うまく撮れてるねー。あ、ねぇ…この皆で映ってる写真、私にも1枚くれないかな?』

「もちろんですわ!すぐ焼きまわし致します!」

『ありがとう。ヤオモモ。』

「ねぇねぇ零さん、舞台の演奏どうだった?」

『あーっ!そうそう、あれなんだけどさ、今度録音してCDにやいてよ!私響香の声好きなんだよねー。バイク乗る時に聴きたいな。』

「録音?!恥ずかしいよ!!…まぁでも、零姉の頼みなら…」

『ふふっ、ありがとう。楽しみに待ってるね。』

緑谷出久はそんなやり取りを耳にして、思っていた以上に零も文化祭を楽しめいた事に安堵の息をこぼした。

実際のところ、今回壊理には笑い方を知って欲しいと思う他に、零に心に残る思い出を一つでも増やせたらいいと願っていた。

ただ、自分が思っていた以上に事は驚くほど順調に運んでいた事を後に知り、やはり彼女を大切に思う人は実に多いということを改めて実感した。

これは後になって聞いた話だが、相澤や校長を初めとする零の存在を知るメンバーが、今日のために段取りを組んでいたらしい。

素直に文化祭を回って楽しめと事前から零に言ったところで、彼女はそれを受け入れない。
だからこそ、当日までは周囲の警護をあたらせる役割を与えつつ、直前になって久我と赤星を学校に招き、本来の役職から校内の巡回に回るよう切り替えをし、彼女の有無を言わさない環境を作ったというわけだ。

もちろん久我と赤星に事前から連絡を取り、警察庁としてではなく、一個人的に警護として雄英高校に来てもらうよう頼み込んだのは、他でもなく連絡先を唯一知る相澤だ。

彼も先日から様子がおかしい零を気にかけ、敢えて強行突破を図るために、本人に悟られぬよう事前に隠密に活動をとっていたらしい。

そして校長の口からそれを言えば、さすがの零も外の警備にあたると突っぱねることも出来ず、生徒たちと共に文化祭を回ろうという諦めがつくであろう、という算段だったそうだ。

何にせよ、結果として零が悩みを吹っ切れて文化祭を楽しんだおかげで、クラスの連中もやりきった感が一段と増していた。

みんながホッコリする空気の中、しばらく黙っていた爆豪が静かにソファから立ち上がり、出口の方へと向かい始めた。

「おい爆豪、どこ行くんだよ!」

「あァ?疲れたからもう寝るんだよ。」

『……』

そう吐き捨てて早々に去っていく彼の姿を、零だけはじっと見つめていたのに気づいたのは、恐らくこの場で自分と轟だけだっただろう。

この後零が皆の隙をついて爆豪の元へ行ったことなど、誰も知る由もなかったのだった。



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