文化祭


緑谷出久は、この状況をどうするべきか思い悩んでいた。

文化祭で青山を支えるために使用するロープの買い出しにでたはいいが、帰り道の途中で思わぬ人物に出くわしてしまった。

最近動画サイトで犯罪動画を配信し騒がせている、ジェントル・クリミナルとその仲間の少女だ。
どうやら今回奴の企みは、間もなく文化祭が開かれる雄英高校に侵入する事らしく、それを聞いてしまった以上は見逃すわけにはいかなかった。

一人の女の子が心から笑う顔が見たい。
皆がこの日のために頑張ってきたことを無駄にしたくない。

先日ミッドナイトから聞いた話では、例え誤作動でもセキュリティが発動した場合は、文化祭は即中止しなければならないという条件で開催を許されていると言っていた。
それならば、何としても奴の侵入だけは止めなければならない。

とは言っても相手は二人でこちらは一人。
奴の“弾性”という個性は思った以上に厄介で、苦戦しつつあった。

交戦のさ中、とうとう奴が雄英高校の真裏にある森の中へと侵入する。
奴の個性を利用して一瞬で距離を縮め、もう一発エアフォースを放った。
見事に攻撃は命中し、奴が倒れた隙をついて腕を固定し、上に覆いかぶさった。

「抵抗しないで!…もう、諦めてくれ!!」

そう告げるも、二人が諦める様子はなかった。
それどころか、彼に付き添っていた一人の少女が涙を流しながら、こう呟いたのだ。

「…ジェントル、愛してるわ…」

その言葉を耳にした瞬間、ジェントルクリミナルの力が増強し、一瞬にして腕を振り放された。

ーー痛い。
全身に痛みが走る。体中が悲鳴を上げる。
でも…

「もっと、強くて速い人たちと戦ってきた…」

死穢八斎會のオーバーホール、治崎はもっと強くて強烈的な攻撃だった。
職場体験で鉢合わせたヒーロー殺し、ステインはもっと動きが速かった。
何より今まで戦ってきたどの相手よりも、時折授業中に手合わせしてもらう零は、最も速くて、強い人だ。
そんな強い零は少し前からずっと、何かを抱えて悩んでいる。
轟のように気の利いた優しい言葉をかけてやれない。
悩み事を聞いて断られたらと考えると、聞く勇気もない。
爆豪のようにストレートな言葉を彼女にぶつけられるほど、的を得た事を言える自信もない。
唯一できるとしたら、人生で初めての体験であろうこの文化祭を、少しでも楽しんでもらえるようにする事だけだ。

だからこそ、今奴の侵入を許してはならない。
外の警備を務める零に負担がかかってしまわないように、文化祭を中止にするような事にならないためにも。

「まだ、負けてないぞ…!」

強い思いは、再び体を起こした。

「頼むから止まってくれ!!!」

そう叫びながらも立ち向かい、再び奴との交戦が続く。
何度も攻撃を受け、それでも只管にたち向かう。

奴を止める事にあまりにも夢中になりすぎて、この時この場に“彼女”が姿を現した事になど、一切気づく事はなかったのだった。



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