文化祭


文化祭当日。

零は警備範囲の最終チェックを終えたタイミングでオールマイトから呼び出しを食らい、職員室へと向かっていた。

『失礼します。』

「あぁ、零くん。すまないね、この忙しい時間に…って、どうしたんだい?!その額の傷は!!また何かあったのかい?!」

『あぁいえこれは…昨晩ちょっと喝を入れられた際にちょっと…。…で、どうしたんですか?』

結局爆豪の頭突きによりできた瘤は一晩では治まらず、微かに赤く腫れた部分を隠すためにガーゼを貼るより他はなかった。
会って早々心配そうな眼差しを向けるオールマイトにもどう説明していいのかすら分からず、ひとまず軽く流して本題へと話を移した。

オールマイトは「全く、君はケガが絶えない子だな…」とあきれた様子で呟くと、小さくため息を零して事情を説明し始めた。

「実は緑谷少年が今朝早くに外出届を出しにきてね…少し帰りが遅いような気がするんだ。」

その言葉と共に差し出された外出届に目を向けては、ひとまずポケットからスマホを取り出して、今の時刻を確認した。

確かに彼の言う通り、届を出してからかなりの時間が経っているし、もうすぐ文化祭が始まるというこのタイミングで未だに戻っていないのは、少し心配だ。

『デクく…緑谷君の携帯には、連絡してみたんですか?』

「したさ。でも一向に連絡がつながらない…恐らく、携帯を持たずに出たのだろう。」

『あー…なるほど。』

全く…と言ってため息交じりに怒る彼の様子を見ては、同じ内容でよく相澤に怒られる自分も人の事は言えないので、顔は自然と苦くなった。

「どうやら文化祭に使うものを買い出しにいっているみたいなんだが…少しだけ様子を見に行ってきてはくれないだろうか。正直どの教員も手がいっぱいだし…情けない話、足が一番速いのは、どう考えても君だしね。」

『まぁ、それでしたら問題ありません。今から少し行ってきます。』

「…すまない。」

『いえ、気にしないでください。では。』

早々にその場を立ち去ろうと踵を返し、職員室を出ようとすると、後方から再びオールマイトに呼ばれる声を耳にし、足を止めた。

「そういえば、今日は随分顔色がいいみたいだけど…何かあったのかい?」

『…あぁ、今日は珍しくゆっくり眠れましたから。もう大丈夫ですよ。ありがとうございます。』

「そうか…何かいろいろ吹っ切れたみたいでよかったよ。…じゃあ、頼んだよ。」

『はいっ!』

彼に小さく笑顔を向けて、再びその場を走り去った。
彼の言う通り今日はすこぶる体調がいい。
昨夜は何日かぶりにぐっすり眠れたおかげだろう。

それもこれも、爆豪のおかげだ。
彼のおかげで、死柄木弔に植え付けられた恐怖心も、悔しみも憎しみも全て吹っ切ることができた。

今日文化祭を終えた後で、もう一度お礼と頭突きの仕返しでもお見舞いしてやろう。

しかしそれにはまず、緑谷を連れ戻すのが先だ。
軽快に足を動かしながらも、ひとまず雄英高校の敷地内を出て彼を探しに出るのだった。


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