文化祭


緑谷出久は壊理、零、通形と共に校内を順番に周り、一通りの科を見物したところで食堂にて休憩をとっていた。

「まぁ、こんなところかな。」

「どうだった?」

通形と挟んで座らせた壊理に感想を尋ねると、やはりまだよく分からない…と答えた後、こう続けた。

「でも、たくさんいろんな人達が頑張ってるから、どんな風になるのかな、って……」

どうやら少しだけ、彼女の心に響いたみたいだ。
楽しみにしてくれるのは、彼女にとっても第一歩であり、興味を持ってくれたということは、彼女が笑ってくれる可能性に繋がる。

密かに通形と喜びの笑みを浮かべれば、ふと向こう側から声が聞こえた。

「それを人は“わくわくさん”って呼ぶのさ。」

「根津校長!ミッドナイト先生!」

隣のテーブルで、校長がチーズにがっくついている様子を見て驚きつつも、彼の言葉に耳を傾けた。

「文化祭。私もワクワクするのさ。多くの生徒が最高の催しになるように、励み、楽しみ、楽しませようとしている。」

「……警察からもいろいろありましたしねぇ。」

「……?」

校長に続けてミッドナイトがそう零すが、それ以上言うなと言わんばかりに彼が肩を軽く叩いた。

「じゃ、君たち存分に楽しんでくれたまえ。」

一足先に食事を終えた校長が席をたち、そう一言残してその場を去る。

零は校長の言葉に深刻そうな表情を浮かべつつ、それを目で追っていた。

「……詳しくは言わないけど、校長頑張ったみたいよ。その結果、更にセキュリティの強化…そして万が一警報がなった場合、それが誤作動でも即座の中止と避難が開催条件となったの。」

「厳しい……」

「もちろん、そうならないために私達も頑張るけどね。敷地内にはハウンドドッグも放つし。それに、ウチにはなんたって最強のセキリュティ要員がいるじゃない。ね、零ちゃん?」

『……』

「……零、お姉ちゃん?」

ミッドナイトに振られても、何も答えず俯いている彼女の様子に最初に気づいたのは壊理だった。

「零さん?」

『え?あ、あぁごめん。大丈夫、文化祭が中止になるような事には絶対にしないから。私も当日は抜け目ない警備をするつもりだよ。』

「師匠……」

『ちょっとごめん。私行くとこで来たから、先行ってるね。……壊理、またね。』

零は壊理の頭を撫でて微笑んだ後、一足先に食堂を去っていった。
そんな彼女の背中を三人が黙って見送ったあと、壊理が不安げな声を落とした。

「零お姉ちゃん、今日すこし変……だった」

「……壊理ちゃん。」

幼い子ほど、大人の心境の変化に気づきやすいという話がある。
そして何よりも、壊理は零の事を姉のように慕っているからこそ、そういう気配に敏感なのだろう。


「…大丈夫だよ。零さんはきっと、壊理ちゃんが当日文化祭が楽しませられるように、いろいろ考えてるだけだと思う。だからそんなに心配しないで。……すみません、そろそろ休憩終わるので、行ってきます!」

あまり彼女に心配をかけさせまいと、最後に壊理にとびっきりの笑顔を見せて、零に続けて二人の元を去った。

長い廊下を走る中、零の最後に浮かべた表情を思い出しては、無意識に彼女の名を零した。

「……零さん……」

複雑な思いが絡まる中、足は寮へと向かわせたのだった。


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