得て、失って


最近は驚くことばかりだ。と零は思う。

試験が終わり寮へと戻ってきた後、資格を取得した生徒たちの資格証を見せてもらい、なんとか会話をしながら夕食を一緒に食べた。

実に心がほかほかした一日だった。
今日は生徒たちの消灯時間と同じ時間に自分も就寝しようと部屋へと向かった矢先、普段は鳴らないスマホが着信を知らせた。

慣れない手つきで受話器ボタンを押すと、第一声から酷く不機嫌な相澤の声が聞こえてきた。

「まだ起きてるな。今すぐ医務室へこい。」

『…医務室?』

なんでそんな所に?と尋ねる間もなく通話は切断される。
よく事情はわからないが、ひとまず行かない理由もないのでそのまま部屋を出た。


そして冒頭に遡る。

医務室のドアを開けて早々、くるりと顔を向けた相澤の表情が、まるで般若のような恐ろしさをしていたが故に、一時停止する。
自分にとって、相澤は最も付き合いが長い相手になるが、彼が怒った様子を露骨に出すことはあまりなかったので正直かなり驚いた。

「えっ、零さん?!」

「な、なんでここにてめぇが……」

二人の驚きの声があがる中、気を取り直して部屋の中へと入り、静かに扉を閉める。
怒りMAXの相澤の向かいには、今しがた声を上げた緑谷と爆豪が怯えるように向かいに座り、彼の後方に額から汗を流すオールマイトの焦った表情を目にした時、何となくだがそれぞれの立ち位置を察した。

般若の顔をした相澤の傍へと歩み寄り、小さくため息を零しつつも呟いた。

『…何やら随分荒れてますね。』

「全くだ。お前、一緒に寮にいながらこいつらが二人抜け出した事に気づかなかったのか?」

『ほかの生徒達と会話してたので、気づきませんでした。で、理由は分かりませんが、抜け出して派手に喧嘩して今怒られてるってわけですか。』

「そういうことだ。まぁ今のお前の発言から考えても、こいつらの素行に気づかなかったお前も連帯責任だ。」

『……なるほど。それが呼んだ理由ですか。』

「ちょ、ちょっと待ってください、相澤先生!」

肩を竦めていた緑谷が、慌てて声を上げる。
相澤は鋭い目をしたまま彼に振り返ると、彼はそれに怯えながらも意見を述べた。

「今回のは…僕達二人の問題であって、零さんは関係ないんじゃないですか?」

「…関係ないかあるかは、こいつが一番よく分かってるはずだ。」

彼の言葉に、相澤は親指でこちらを指す。
そう、分かっている。だからこそ、反論も何もしなかった。
しかし、納得のいかない様子をしている二人がいるのもまた事実だ。

『二人が抜け出し、結果としてただの喧嘩で良かったものの、その最中に万が一敵の襲撃や危険な事に巻き込まれたとしたら、それは彼らの護衛を務める私の管理不届き。という解釈であってますよね。』

淡々と話すと、彼は眉を顰めつつも「その通りだ。」と呟く。
そのやり取りに納得がいかなかったのか、次にオールマイトが口を挟んだ。

「あ、相澤くん。それはいくら何でも彼女が……!それに今回二人の喧嘩を引き止めなかったのは他でもな私で…」

『オールマイト。いいんです。』

「し、しかしだな、零くん……」

零は知っている。
相澤は理不尽なことや非合理的なことは言わない。
彼がこじつけるように自分にも非があると突っぱねるのは、それなりの理由が何かあるはずだ。

だからこそ、彼の言うことをすんなり受け入れた。

「こいつらに今しがた謹慎処分を下したところだ。お前は二人と一緒に、計四日間寮で見張りしろ。それがお前に降す処分だ。」

『わかりました。謹んでその処分、お受け致します。』

「そ、そんな……」

「チッ……」

申し訳なさそうな表情、一方は心の中では同じ気持ちを抱きつつも、素直に吐き出さない表情の二つを見つめながらも、それに従った。

後は頼んだぞ。と低い声で肩に手を置いたあと、相澤は早々に部屋から退場し、オールマイトは帰る前にもう一度罰の悪そうな顔で前に立ち、相澤と同じようにそっと肩に触れた。

「すまないね…零くん…巻き込んでしまって。」

『気にしすぎです、大丈夫ですよ。オールマイト、おやすみなさい』

そう返すと、苦笑いを浮かべて相澤に続き部屋を出ていき、気まずそうに下を向いている二人の生徒と残った。


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