仲間



望月家と服部家の因縁の戦いが幕を下ろした翌日。

幸いにも日曜日で、校長との話し合いで今回の件は公にはならず、関わった者達だけのみ知る事件となった。

USJの敵連合奇襲の件、加えて林間合宿の件、そして今回の闘いに生徒が巻き込まれたとなれば、雄英高校の評価もさらに悪化する、という考えがあっての配慮だろう。

それに加え、零自身が関与する事件に関しては元々秘密裏にされることが多い。
更には今回の黒幕である人物が、警察庁公安部の裏理事官である事から、世間の混乱を避けるためにこの判断を下したのだろう。

緑谷出久は、目が覚めた相澤にこってり叱られて戻ってきた零の落胆した姿を見つつ、ほっと安堵の息をこぼした。

『……はぁ。めちゃくちゃ怒られた…』

「ま、まぁ…相澤先生も、零さんの事を思ってる証拠ですよ。」

『……うん、そうだね。デクも、あの時本当に止めてくれてありがとう。』

そう微笑む彼女も 実際あの戦いの後、個性を使いすぎた反動が酷かった。
あの場で急に吐血するわ、身体が重くなってその場に崩れ落ちるわ、とにかく全員が青ざめる事態になった時は、もっと早く止めればよかったと酷く後悔したものだ。

しかし、その場にいた零専属ドクターと名乗る赤星が、彼女だけに特別に調合された薬を飲ませたことにより、体は直ぐに回復へと向かった。

そしてその光景を目に焼き付けた者たちは、きっと彼女のそんな姿を見て強く思っただろう。

ここまで無茶をさせないように、自分たちが強くならねば、と。

実際、忍相手の戦闘は今までの実戦経験も皆無と言っていいほど役には立たなかった。
相手が誰であろうと、対応できる強さがなくてはいけない。
そうならなければ、彼女が隠密ヒーローとして存在している限り、その負担を軽減できることはないのだろう。

零に生き続けて欲しい。力を使いすぎて寿命を縮めないで欲しい。
そんな思いが強まる一方で、もっと自分が強くならねばならないと密かに意志を固めた一件となった。

「…零、頬痛むか?」

考え事に意識を持っていく中、近くにいた轟のそんな言葉で我に返った。

治癒の個性は、零には効果がほぼない。
彼女を正気に戻すためとはいえ、咄嗟に平手を打ったことを後悔しているのか、彼は苦しそうな表情で彼女の手当された頬に手を添えた。

『…いや、こんなの全然痛くないよ。むしろ、言い方は変だけど、なんかちょっと嬉しかった。』

「え?」

『…今まで何度も叩かれたことはあったんたけどさ。……自分を想って叩いたくれたのは、初めてだったんだ。』

情けなく微笑む彼女の横顔を見て、吐き出した言葉の深さを悟る。

何度も叩かれたことがあったというのは、恐らく服部家の者…そして実の父にされてきた仕打ちを意味しているのだろう。

本当に、今までよく一人でいろいろ乗り越えてきものだ、と改めて思う。

彼女の強さは、その過去を受け止めてきた心の強さあってこそのものなのかもしれない。

そう考えた矢先、突然その場に爆豪が現れてはニタリと笑って彼女にこう言ったのだ。

「おい、零。そんなに嬉しいんならもう反対の頬は俺がやってやろうか?」

『……え?』

「ちょ、かっちゃん!?何言って……」

「遠慮すんなよヘタレ野郎。俺はまだテメェへの怒りは収まってねぇんだ。あん時咄嗟に俺の事も無視して飛び出しやがったしなぁ……」

関節を鳴らしながら近寄る彼に、零は思い当たる節があるのか慌てて椅子から立ち上がり、距離を取ろうと後ずさる。

『や、だからあの時は既に必死で……』

「お、おい爆豪やめろって……!」

「るせぇ、半分野郎が先越したなんて、ムカつくだろうが!!!」

『…は?!ままままま、まって!痛い!かっちゃんのビンタは絶対やだ!!』

「安心しろや零。ちゃーんと心込めて殺ってやるからよぉ。」

『ちょ、なんか今の発言漢字の変換違くない?!』

零はそう言いつつ、慌てて彼から逃げるために室内を走り出す。
爆豪は血相を変えた表情で彼女を追いかけ回し始めた。


「待てコラッ!逃げんじゃねぇ!」

『そんなあからさまな殺意持った平手打ちなんて、やだっ!焦凍みたいな優しさ絶対ないもんっ!!』

「あんだとコラァッ!!」

「…なんか、そう言われるとちょっと嬉しいな。」

「いや轟くん、嬉しがってる場合じゃ……」

隣で呑気に頬を赤らめる彼に突っ込みつつ、爆豪を止めに入ろうとしたその時。

寮のエントランスの扉がゆっくりと開き、全員の視線がそちらへと集中したのであった。


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