仲間


轟焦凍は、零の頭を何度も優しく撫でてはほっと安堵の息を零した。

ーーー伝わってよかった。

零を大切に思う気持ちが……皆がそばにいて、もう昔と違って一人じゃないということが。

近くにいる緑谷と目が合い、互いに小さく笑みを浮かべると、後方から飯田が名を呼ぶ声を耳にした。

「轟くん、緑谷くん!!」

「飯田!」

「飯田くん!」

「おぉ、零さん!よかった、正気に戻ってくれたんですね!!」

彼は零の様子を見るなり、ぱっと明るい表情を浮かべた。
念の為、クラスの動けるメンバーがいるかどうか確認して、零の暴走を可能な限りの人数で止めようという手段も考慮していた。
そこまで大事には至らなかったが、何より彼の背後にいる皆が、怪我もなく揃っている様子を見て、ほっと胸をなでおろした。

そして見たことも無い男が一人、零の様子を目にしては、ホォーっと喉をならして自身の顎を撫でていた。

「こりゃ驚いたな。朧を手懐けている奴がいるとは……」

「手懐け?あんた一体……」

「轟!この人は味方だよ!久我さんって人と同じで、零さんの専属ドクターの赤星さんっていって……!」

尾白が慌てて紹介しようとした瞬間、赤星という単語を聞いたせいか、胸の中で大人しくしていた零が勢いよく離れ、その男の方に目を向けた。

『なっ……、ち、ちがっ、これは……!』

「いやいや、これはまた面白いものを見せてもらったよ。」

『赤星さん!!!違います!!』

顔を真っ赤にさせて否定する零に、少し複雑な感情を抱く。

ーーもっと、抱きしめていたかった。


思わずそう心の中で囁いた言葉にはっと我に返り、慌てて左右に頭を振ってかき消した。

「おい赤星。零さんをおちょくってないで、少しは手伝え。」

「久我くん、生きていたか。……で、イレイザーの方は派手にやられたようだな。」

『赤星さん……消太さんをお願いできますか……』

申し訳なさそうに赤星に言う零を見て、彼はさも当然だと言いたげな表情で彼女の頭に手を触れたあと、相澤の方へと向かった。

「それより、皆あれだけ怪我を追っていたのに、どうやって?」

緑谷の質問にはっと我に返る。
すると八百万がそれに答えた。

「赤星さんの個性を使って治していただいたんですの。リカバリーガールと肩を並べるほどの凄腕ですわ。」

『……赤星さんが来てくれて、よかった……』

零はそれを聞いて、小さく息をこぼした。
そんな中、後方にいた爆豪が皆を掻き分け、彼女の目の前へとやって来て早々、眉間に皺を寄せた表情で言葉を吐き出したのだ。

「…おい、零。まさか俺達が怪我を負ったのがテメェの責任だとか、護衛任務なのに逆に危険に合わせちまったとか、責任感じてんじゃねぇだろうな。」

『えっ……』

「……」

彼女はビクッと肩を跳ねた。
そして、彼はそれを見ては更に荒々しい声で怒鳴った。

「テメェ、前に俺になんつったか忘れたか?!」

『え、えっと……』

「隠密ヒーロー朧としてじゃなく、1人の服部零として守るって言っただろーが!!」

『……っ、』

彼の言葉に、自分も耳にしたことのある言葉だと思った。
零が最初にうちのクラスに来た時に、彼女自身がこぼした言葉だ。

言った本人は言葉を詰まらせて、身体を後方へと仰け反らせていた。

「護衛任務が失敗だの、君主1人守れねぇからって命投げ捨てようとするテメェの姿勢のどこが、服部零としてなんだよ!!」

胸ぐらを掴み、零へ詰め寄る彼を振り払いたいと思う反面、爆豪が真正面から言おうとしてる言葉が気になり、躊躇する。

そして彼は、そんな自分の心境を他所に零にこう叫んだのだった。

「なんだがんだ、テメェが一番“忍”に縛られてんじゃねーかっ!!んなクソくだらねぇ掟なんぞ、さっさと忘れて捨てちまえや、クソがッ!」

『……っ、』

「俺たちは誰もテメェをそんな風に思っちゃいねぇし、ましてやテメェに死なれちゃ、俺が困んだよ!俺が勝つまでそう簡単に死のうとすんじゃねぇ、分かったか零ッ!!」

零はその言葉にポカン、と口を開けて呆然とした後、目線を下げて徐々に肩を震わせて笑い始めた。

『…っ、うん、そうだよね。ごめん、』

「なっ……んで笑ってやがんだ!!そこ笑うとこじゃねぇんだろっっ!ナメてんのか?!」

『いや、かっちゃんらしいなって……』

「はぁ?!」

悔しいが、奴の言葉は乱暴であっても零にとってはよく突き刺さる。

変に優しくしようとしない。自分の意思は曲げない。何より自分が思っていないことなど、普段口にするような男ではないからだ。

そして零に声を荒らげて笑わせるのも、今のところ比較的爆豪相手が多い。

密かに爆豪に嫉妬心を抱きながらも、ほかの生徒達に囲まれて再び笑顔を浮かべる零の顔を見ては、そんな疚しい心は一旦心の奥底にしまい込むのであった。



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