仲間


緑谷出久は、残りの力を振り絞って零の刀を持つ腕にしがみつくように抑えこんだ。

もう一方の角度から、轟が彼女の背後から抱きしめるように体を抑える。
零は酷く驚いた表情を浮かべて、ギロりと鋭い目をこちらに向けた。

「零さんっ、落ち着いてください!僕たちは全員生きてます…っ!だからもうこれ以上は…!」

「零、もういいんだ!」

『……っ、離せっっ!!』

彼女はしがみつく二人を振り払おうと、強い力で腕や身体を捻り上げる。
こんな華奢な身体のどこにそんな力があるのか、不思議でならない程の抵抗力だ。
一瞬でも気を抜けば、簡単に振り払われてしまうだろう。
しかし、この場は意地でも離すまいと必死になった。

『離せって言ってんだろ!離せ……っ!』

「い、嫌ですっ……!」

「零、落ち着け!どうしちまったんだよ、ホントに!!正気に戻ってくれ!!」

『……っ、』

轟の問いかけに、一瞬彼女は動きをとめた。
俯く零の表情が見えず、何を考えているのかすら分からない。
その迫力に思わず息を飲むとほぼ同時に、彼女が静かに零し始めた。

『……なんで誰も責めない。皆傷ついて、そんなんにまでなったのは……私のせいなのに…』

「そんな訳ねぇだろ!なんで零のせいになるんだよ!」

『本来みんなを守るのが私の役目…それなのに、服部家の事情に巻き込んだ挙句、こんな状況を作るなんて…護衛任務失格だ。そんな私の命なんて、気にかける理由が……』

「……っ、馬鹿、野郎っ!!」

その時轟は、彼女の荒々しい声を聞いた直後に、手のひらで頬を強く叩いた。

「とっ、轟くん……!?」

一瞬咄嗟に間に入って止めに入ろうかとも思った。
しかし、叩かれた彼女よりも彼の顔の方が苦しそうな様子に、自然と足は動きを止めた。


「…俺は知ってる。お前がいつも、なんでも一人で抱え込もうとするのも。お前が自分自身を大事にしねぇ事も。だからその分、俺が…いや、たぶん俺だけじゃねぇ。皆かお前の命を大切にしたいって…お前のことを大切に思ってんだ!!だから、“私の命なんて”…だなんて、言うんじゃねぇっ…!!」

彼は俯き、肩を震わせて拳を強く握りしめた。
その言葉を聞いて彼女がどう捉えたか様子を伺おうとすれば、酷く驚いた表情を浮かべつつ、彼一点を見つめていた。

そして轟は、強く締めた拳をゆっくりと解き、顔を上げて優しい声を彼女に吐き出した。

「……零。お前はもう、一人じゃねぇ。みんなが…“仲間”がそばに居るんだ。だから、これ以上故意に個性を暴走させて、自分の命を蔑ろにしないでくれ…頼む。」

穏やかな笑みを浮かべる彼を見つめていた零は、その言葉を聞くと共にポロポロと大粒の涙を零し始めた。

刀を握りしめていた力はふっと抜け、カランと音を立てて地面へと落ちる。

そして零は口元を抑えて、弱々しく声を漏らした。

『私、みんなといても…いいの?こんな酷い目に合わせたのに…こんな敵のような姿を見せてしまったのに……』

轟は、目の前で涙を流す彼女の身体を勢いよく抱きしめ、胸の中に零の頭を押し付けるように腕の力を強めた。

「俺たちを守ろうとしてくれたんだ。当たり前だろ…皆、お前とこれからも一緒にいたくて戦ってきたんだ…そう易々といなくなられてたまるかよ。」

『ふっ……ぅ……っ、』

声を押し殺して静かに泣く零は、轟の胸にしがみつくように強く肩にしがみつき、肩を震わせた。

そしてその時ようやく理解した。
零がどことなくいつもと様子が違ったのは、怒りに身を任せていただけではない。

八百万が勘で言っていたように、彼女は暴走した姿を見た自分達に拒絶され、一緒にいれなくなるかもしれない、ということに怯えていたのだ。

それほど服部零にとって、1-Aのクラスが大きな存在になっていたことに、不謹慎ではあるが密かに嬉しさを感じた。

彼女の痛めた心につられながらも、彼の腕の中で泣き続ける零を見つめては、暴走を止められたことにほっと胸を撫で下ろしたのだった。


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