7話



「なぁ、シオン知ってる?最近学校で起きてる事件のこと」
ショートホームルームが終わった直後、前の席に座っていた男子が振り向いて話しかけてきた。そういえば異形の人間の噂もこいつから聞いたんだったな、とシオンは思った。
「僕は噂なんて信じないから、興味ない」
シオンは呆れたように机から文庫本を取り出して読みかけのページを開く。しかし、そんなことにはお構いなしに、噂好きの男子は話し始めた。
「まあ聞けよ。学校にな、猫の」
「ごめん、僕先生に呼ばれてたんだった。じゃあね」
男子の話を遮るようにシオンはその場を後にした。

職員室に向かった後不意に窓の外を見ると、学校の周りに張られた金網の外側によくよく見知った人間がいることに気がついた。
長い黒髪と大きなマスクで顔の殆どが隠れてしまっているその様は、どこからどう見ても不審者でしかなかった。しかしシオンにはそれが誰だかはっきりと分かった。

面倒ごとには首を突っ込みたくない。彼は常日頃からそう考えていた。なぜあの人がこんな場所を徘徊しているのかはわからないが、そんな思考を巡らせることも怠惰で、とりあえずいつも通りの散歩の一種だと事を簡単に片付けて視線を廊下に戻すと、教員が向かい側から歩いてくるのが見える。すれ違いざまに軽く会釈をすると、教員も微笑んで応えた。そしてこうつぶやいた。
「最近、あの人よく学校の側にいるのよ。どう見ても怪しいからって声かけようと考えあぐねているのだけど…」
「へぇ…そうなんですか」
戻した視線をもう一度あの人に注いだ。確かに他人から見ればどこからどう見ても怪しい人物だが、特に学校に危害を加えることはないだろう。
「まあ、大丈夫だと思いますよ」
シオンはそう言い残して止めた歩みをもう一度進めた。背後から「でも…」という教員の声も聞こえた気がしたが、その声は小さすぎて耳栓をしていたシオンにはきっと聞こえなかっただろう。

かわいそうに。
それが今の彼の率直な感想だった。おそらくどのような人物がナナリを見たとしても、良い印象を持つことはないだろう。それは彼の頬の傷然り、彼の性質然り、とにかくもうあの人は誰にも愛されることがないのだろう、とシオンは確信していた。

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