5話



ふと目を覚ましたシオンは、眠い目をこすりながら辺りを見回した。カーテンの隙間から漏れる朝焼けの光が、少し汚れた畳に白くぼやけた線を浮かび上がらせている。その線に混じってまた一筋違う場所から線が伸びていた。部屋の扉が少しだけ開いているのだ。シオンは不快に思って、倦怠感の残る体を引きずりながら静かに扉を閉めた。そしてもう一度布団に体を横たえて、枕元に転がしている時計を睨むとどうやら夜中に電池が切れたらしく、止まっている。シオンはため息を吐きながら、素直に起きてやることにした。

階下に行くとアクメが出勤の準備をしていた。シオンが小さな掛け時計に目をやると、6時であった。そういえば昨日、朝早く出ると言っていたような気もしたが、記憶は曖昧でよく覚えていない。
「おはよう兄貴」
「ああ」
シオンが声をかけると、あまり興味がないというように、適当な返事が返ってきた。アクメのことをシオンはあまり知らない。というよりも、アクメの感情は全く読み取れないのでシオンはアクメの事を理解することを諦めていた。きっと同じようにアクメもシオンのことを、気にかけていても理解しようとは思わないだろう。自分たちがそういう家族であることを十二分に分かっていたのは彼ら自身であった。

少ししてアクメが家を出ようと廊下に出たら、そこにナナリが座って寝ていたらしい。
「どっかいけナナリ」
というつぶやきとともに重く鈍い音が聞こえた。シオンはそれをいつものごとく聞き流しながら学校へ行く準備を始めていた。

シオンが家を出る時もナナリは廊下に倒れこんだまま寝ていた。そこまで眠いのかと思案しながらシオンはそっとその横を通り過ぎようとした。その時ふと、今日みた夢がフラッシュバックしてきた。

『ナナリくんは異形の人間だと疑ったほうがいいですよ』

「ふん。馬鹿馬鹿しい」
噂でしか聞いたことがない、作り話のような、そんなものがこんなに身近にいるわけがない。
シオンは馬鹿げた夢をみた彼自身を嘲笑して重いドアを開けたのだった。

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