3話


日曜日、学校が休みということもあってシオンは昼頃まで寝ていた。アクメも仕事が休みで家にいるし、ナナリは散歩以外は基本的にいつでも家にいるので、三兄弟が朝から晩まで一緒にいることになる日が日曜日なのだ。平日はシオンが高校へ行き、アクメが職場へ行き、ナナリが家で留守番、もしくは散歩という名の徘徊をしているということが常である。

シオンが眠気の覚めない体をゆっくりと起こすと、階下から不快な音が聞こえた。日曜日は貴重な休日だが、同時にナナリがアクメに暴行を受ける頻度が増える日であった。
「日曜の真昼間からやめてよ…ナナリがうるさい」
「シオン。起きてくるのが遅い。規則正しい生活を心がけないとだめだ」
床に転がっていたナナリの腹部を蹴るのをやめて、アクメはシオンの横を通り過ぎながら言った。ナナリは床に突っ伏したまま呻き声を漏らしていた。
「ナナリ」
シオンがその名を呼ぶと、うずくまっていた黒い塊がびくりと震える。
「馬鹿だね。いつもみたいに、外に出ていればいいのに」
その場を去ろうと踵を返すと、か細い指が足首を掴んだ。シオンは思わずその手を振り払うように足を素早く引いた。
「触んないで…!」
振り向いて短く怒鳴ると、何か言いたげにナナリが顔を上げた。
「シオン…シオンが…シオンが」
足元で発せられているはずの声が、シオンには耳元で聞こえる。

もともと音が聞こえやすく、それだけでもうるさくて疲れるのに、ナナリの声は特に際立って耳障りで、シオンにとって彼の声を聞くことは苦痛以外何ものでもなかった。

「わかった、わかったから聞くから、ナナリ黙って…!」
テーブルの上に置かれていたメモ用紙と短い鉛筆をナナリの目の前に投げると、ナナリはそこに汚い文字を書いた。
それを解読したシオンは即座に怪訝な顔をした。
「僕が…いたから?」
ナナリの顔を見つめると、裂けた唇のはしから血を流している痣だらけの顔がふわりと緩んだのだった。

「…ふん…僕がナナリを助けるとでも思ってるの?そんなことするわけないじゃん…ナナリって本当にうるさいね」
シオンはそう吐き捨ててその場を離れたものの、彼が動揺を隠しきれたかどうかは、きっとナナリしか知らない。

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