43話



ふと目を覚ますとあたりは真っ暗だった。だんだんと視覚や嗅覚が研ぎ澄まされ、周りの状況が少しずつ見えてくる。

あの日から何日経ったのだろう。異臭が鼻を刺し、シオンは思わず吐いた。胃の中には食べ物がなかったらしく、胃液だけが外に出た。喉が焼けるように熱い。隣には変わり果てた姿のナナリがいた。ウジが湧き、ハエが集り、今まで一度も見たことのない光景がそこに広がっていた。きっと階下でも同じようなことが起こっているのだろう。そう思えばそんな状況にも諦めがついた。
このまま眠っていよう。
そう、シオンは考えた。このまま果てていくのも悪くない。いずれ自分にも制御不能の狂気は訪れるのだから。母親の知らない、自分が異形の人間であるという確証を彼は持っていた。
「ははっ……あはは…」
よくわからない感情が彼を襲う。思わず笑い声が漏れた。これが狂気なのか。

怖くなってナナリの瞳を覗き込んだ。まだ夢を見ていたい、いつまでも、終わりのない夢を。あの頃のような、幸せな日々を。

生気のない視線と視線がぶつかって、彼はもう一度穏やかな眠りについた。


[ 43/46 ]

[前へ] [次へ]
[目次]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -