42話



頭の中に流れていた映像に歪みが生じる。次に見えてきたのは、母の美しい死に顔だった。その頭部がゆっくりと近づいて、やがて生々しい嫌な音が響く。また映像はぼんやりとしてきた。でもこれは場面が変わる時の歪みではないことがシオンには瞬時にわかった。
涙だ。
泣いているのだ。ナナリが。
「おぇっ…げほっ…う、うっ」
時折、吐き気に襲われているのか、嗚咽も聞こえてくる。そして、母の脳みそを食べ終わるか終わらないかのその時、ナナリに異変が起こった。
「お、かあさん…?」
映像は右へ左へと揺れる。ナナリが忙しく眼球を動かしているのだ。
「おかあさん。おかあさんだ、おかあさんだおかあさんおかあさんおかあさん」
おかしい。母はもういないはずなのに、ナナリは必死に母を呼んでいる。それどころか母の存在を確認しているかのように今は眼球の動きがぴたりと止まっている。
「おかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさ」
「ナナリ…なにやってんの…おかあさんに、なにやってんの、ナナリ」
そこにいたのはアクメだった。その表情、言葉から今までに感じたことのない、嫌悪、憎悪が溢れ出ている。
「ナナリ…許さない。お母さん食べたの、許さない。ナナリ嫌い、大嫌い、ナナリいらない、死んで、消えて、ナナリ…」



「ナナリ死んじゃえ」





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