41話



「ナナリ、あのね。聞いて欲しいの」
少しだけ落ち着いたその時に母親は語り始めた。

「もし、お母さんが死んじゃったら、ナナリはお母さんを食べてね」

「え…?」
あまりに突拍子のない発言にナナリは思わず声を漏らした。そしてあからさまに動揺した。
「お母さん、一人は寂しいな…だから、ナナリがお母さんのこと食べてくれたら、いつまでも、ナナリと一緒だよね?」
そう言って母は微笑んだ。その瞳には生気がなかった。ナナリはガクガクと小刻みに震えながら、ゆっくりと頷き口元を歪ませて笑ったふりをした。

次の日、母親はアクメを1人で病室に呼んだ。
「なに?お母さん」
アクメはたくさんの目を輝かせながら笑っている。それを見て母親はなんだか悲しくなった。こんなにいい子なのに、どうしてナナリに対してはあんなにきつく当たるのだろう。もしこの子がナナリと仲がよければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
「あのね、アクメ。お母さんはアクメのことが好きだよ。でもね、お母さんはナナリのことも好きなの。だから、アクメとナナリには喧嘩して欲しくないの、分かるかな?」
優しく頭を撫でながら語りかけると、アクメは表情を曇らせながら首を縦に振った。
「だからね、ナナリのこといじめないであげてね。3人で仲良くしてね」
「でも、ナナリが」
「アクメ」
アクメが反論しようとしたところを母親が遮る。
「お母さんの、最後のお願いだから…3人で仲良くしてね」
その言葉にアクメが何かを悟ったのか、大人しくベッド脇の長椅子に座って拗ねたように、わかった、と呟いた。

アクメと交代にシオンを呼んだ。まだ幼い我が子との別れが近づいていることに涙をこぼしそうになりながらも、そばにある小さな棚の引き出しから茶封筒をとりだした。
「これ、シオンへのお手紙。お母さんがもしいなくなっちゃったら、その時にシオンだけで読んでね」
茶封筒の仲に入っている硬いものを確認してシオンが聞いてきた。
「これなあに、お母さん」
「ひみつ…」
ふふと含み笑いをするとシオンが可愛く拗ねた。


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