40話

茶封筒から手紙を取り出して久しぶりにそれを読んだ。記憶にほとんどない母が本当にこの世にいたことを証明する、彼にとって唯一の証拠である。あの時は、底なしの恐怖ばかりきわだって、文章の意味は全く理解できずに、タンスの、しかも一番使わない引き出しにそれらを隠して、見ないふりをして生きてきたのである。ただ、今ならなんとなく文章の意味がわかりそして実際にそれを実行してしまったのだと強く感じていた。
だが、謎は少しだけ残った。
それはこの一文である。

『いつか、彼が”人ではないもの”になったら、この拳銃を使って、2人を幸せにしてください。』

なぜ母親は”彼ら”ではなく”彼”と書いたのか、ただの書き間違いなのか、今となってはだれにもわからない。
そして、最後の文章。
『その後の選択はあなたの自由に任せます。よく考えて、決めてね。』
決めるもなにも、拳銃に弾は入っていなかった。生きるか死ぬかも選べないのに選択などできるわけがない。そう思いながら、拳銃であるリボルバーのシリンダーを見ると、一つ目の弾とは離して一つだけ弾が入っていたのである。
「これのことか」
そう言ってもう一度拳銃を構えてみたが、だいぶ気持ちは落ち着いて、どうしてももう先ほどのような行動はできないのであった。
「意気地なし。これからどうやって生きていこうか」
シオンは、うつ伏せのナナリを仰向けにさせて、空虚を見つめる瞳に自分の視線を合わせた。そしてその後彼は鮮明に、彼らの記憶をみることになるのである。幸せを願い、破滅していった彼らの一生を。


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