36話

立て続けに頭の中に声が響いた。
「シオン、かわいいね。大好き。シオンは、あの子みたいに僕のこと、嫌いにならないで。お願いだから。大切だから」
幼い自分はその声を聞いて泣いた。もうこの時からナナリの声を受け付けなかったのだろう。
その声を聞きつけたのか背後から聞きなれた、それでも少し甲高い声が叫ぶ。
「おまえ、シオンのこと泣かしたな!さては父さんの時みたいに…ナナリ、ゆるさない…!」
映像はアクメに焦点を当てた。彼の手にはキラリと怪しく光るものが握られていた。
「や、だ…やめて…ちがう。ちがうんだよ」
映像は時節乱れたりぼやけたりした。じりじりと距離を詰めるアクメのぼんやりとした姿が、その凶器を振り下ろすかというところで、シオンの肩を掴んで必死に呼びかけてくるアクメが見えた。
「おい、どうした!!シオン!大丈夫か」
はっと我に帰り、シオンは小さな声でつぶやいた。
「違うんだ…ナナリは、なにも、悪くないんだ」
「なにを言ってるんだお前は…!シオンまでこいつに毒されてたんじゃだめだろ!!目を覚ませよ!」
「そう、じゃなくて…」
「もういい…!」
アクメは思い切りシオンを突き飛ばして、ナナリの方に向き合った。
「お前のせいで何もかもめちゃくちゃだ!父さんも、母さんも、ナナリに食べられて死んだんだ。俺も、シオンも、いつか食べられて殺される…みんなお前のせいで不幸になってるんだよ!いい加減死んでくれ、この世からいなくなれ、ナナリ死んじゃえよ!!」
アクメが真っ赤な拳を高く上げた、その瞬間だった。


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