35話



突然寒気がしてシオンは目を覚ました。彼はまず自分が玄関からすぐの廊下で眠ってしまったはずなのに、和室でしかも布団に寝かされていることに気づいた。少し経つと感覚が緩やかに覚めてくる。耳からは聞きなれた嫌な声と騒音、そして無理やり開いた瞳に飛び込んできたのは、激しく絡まる二つの塊であった。
ナナリとアクメだ。
まだ意識のはっきりとしない中彼はそう感じ取った。様子を見るに、ものすごい形相でアクメがナナリに殴りかかっている。その両手は見たことがないほど血で汚れていた。
「ナナリ許さない。殺してやる…殺してやる…!死ねナナリ!!」
アクメが叫びながらナナリを激しく痛めつけている。その光景は見慣れたものと思っていたが、どうやらいつもとは訳が違うらしい。そう、まさにその光景に感じたことのない狂気が、シオンにまでひしひしと伝わってきているのだ。
「な、にやってるんだよ兄貴…!やめて!」
流石にこれは止めるべきだと悟ったシオンは、まるで数日動かしていなかったかのようにガチガチの体を無理やり起こして2人の元へ向かった。そしてアクメの腕を強く掴んだ。
「離せシオン!俺はこいつを殺す、ナナリを殺す!」
「まって、ナナリが何をしたっていうのさ…!ちょっと、落ち着こうよ、ねえ」
シオンがそう言うと、アクメが掴まれた腕を強く振りシオンの手を無理やりはがしてこう叫んだ。
「ナナリはまたお前を食べようとしたんだ!13年前と同じように、お前が眠っている間に!ナナリはお前を殺そうとしたんだよ!!だから」
シオンはその言葉を聞いて真っ先に夢で見た内容を思い出した。アクメが母親に向かって放った言葉。

『アクメ、怒らないから正直に言ってね。どうしてナナリにあんなことしたの』
『だって、ナナリがシオンのこと食べようとしたの!だからシオンのこと助けたんだよ!』

残念ながらその時のことをシオンは覚えていない、けれど本当のことを知っているのはナナリと彼の2人だけだ。シオンは咄嗟にナナリに視線を移した。血まみれの晴れ上がった顔に二つの輝きを探す。闇のように深い黒を携えた瞳と視線がぶつかった時、プツリと現実の意識は途切れシオンの目の前には古い映像のような、歪みのある光景が広がった。
そこには幼い頃の自分自身がいた。
それをのぞきこむような景色が見えて、シオンは初めて気付いたのだ。
これはナナリが見ていた世界なのだと。


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